凍傷 ページ13
Aの胸の中にうれしさがじんわりと広がって、この積もった雪も解かしてしまえそうなあたたかさを感じた。
｢A｣
｢うん？｣
｢今の絵が終わったら、もう一回、僕を描いて欲しいな｣
｢いいよ｣
(望むなら、いくらでも、きみを)
何百枚でも描いてあげたいと思うのだ。
#
｢あのときは、本当に怖かったな｣
練りゴムで絵の中の彼にハイライトを入れているとき、その梅野は唐突に呟いた。
｢元彼女の話か？｣
｢うん。カッターで僕を刺したんだよ。彼女｣
｢なっ｣
梅野は自嘲気味に笑んだ。
｢横腹、今でも残ってるの｣
｢よく、生きてたな｣
｢すんでの所でかわしたからね。僕の武勇伝かも。…見る？｣
｢え｣
｢傷｣
Aはとっさに三島の方を見た。
(…大丈夫、絵に集中している。こっちを見ていない)
Aははっとした。
(俺は、一体何をして)
何故、人の視線を気にする必要があるのか。
やましい事は無いのだから、堂々としていればいいのだ。
｢……見る｣
Aが言うと、梅野はふふっと笑ってから、学ランに手を伸ばした。
細い指が、ホックを外し、金のボタンもひとつずつ外した。学ランの袖からするりと腕を抜く。
梅野はワイシャツをつまみ、くい、とズボンから裾を引っ張り出した。
そのめくりあげられた白い布の下から、やはり白い色の腹が露になった。
Aは、ごくりと唾を飲み込んだ。
｢ほら、この辺り…｣
きれいな肌に、たったの一ヶ所だけ傷痕があった。真っ白な腹にピンクに走った線が、いやに艶かしい。
｢結構深かったんじゃないか。それ｣
その声は掠れた。
｢うん、血が止まらなくて｣
紅い血がその身体を伝う様を、Aはありありと浮かべてしまい恐ろしくなった。──その反面、なぜか興奮した。
しばらくシャツをつまんだままだったが、梅野は一瞬上目遣いでちらとAを見た後、ぱっと俯いた。
自分から見せたくせに、頬にほのかに赤みがさした梅野はそそくさと服を元に戻した。
しかし、すでにAは、かつてあのバスの中でも感じたような、耐え難い欲求に駆られていた。
｢兄が病院まで送ってくれて｣
｢そうか｣
今、Aの心に鮮やかに火がついたのだ。
(ああ)
罪深き、美しい身体。
それは、Aの中で一線を越えた類いの、危険な欲求だった。
(あの傷跡を、キャンバスに描きたい)
(自分のものに、したい)
それはもう、Aの想いの発露に他ならなかった。
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天泣tenkyu(プロフ) - 読みやすい わかりやすい 面白い 、の三拍子ですね！笑めちゃくちゃ読むの楽しくて一気に全部読んでしまいましたぁ…… (2018年10月11日 20時) (
レス) id: daeb79a243 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(金欠）(プロフ) - 面白かったです。お疲れさまでした！ (2018年2月26日 5時) (レス) id: f13eb61b67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 面白いのに、勿体無いと思います。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 読みづらい。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - めっっっちゃおもろいです!!二人が再会できて良かったです!!更新頑張ってください!!q(^-^q) (2017年12月27日 17時) (携帯から) (レス) id: 76f089da6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺぺこ | 作成日時：2017年10月30日 0時
