吹雪 ページ1
徐々に冷え込み、雪や霙が降る時期になった。
Aはポケットに手を突っ込んで、寒さに焦らされながらバスが来るのを待っていた。
数分後ようやくやってきたバスに、ICカードをかざしてから乗車した。
最近になって急にバスは混み始めた。今まで自転車や徒歩で通勤していた人々が、雪のせいでこぞってバスにやってくる。
(これからはずっと混むだろうな、春まで)
夏は人が少なく快適だったが、冬になると車内はぎゅうぎゅうで、悪天候も相まってバスの遅延が頻繁になる。
早く冬が終わればいいのに。そう思いながら、Aは後方の座席に腰かけた。
次々と見知らぬ顔がバスに乗り込んでくる。ずっと同じバスに乗っていると赤の他人でも顔だけ覚えていたりするのだが、今日は知らない顔が多い。彼らが冬場しかバスに乗らない人々だからだろう。
(同じ制服だけど、知らないやつばかりだ)
また一人、見知らぬ少年が乗り込んだ。同じ制服だった。
彼は一度前方を見たが、乗車できるスペースがないと判断したのだろう。くるりと後方──こちらを向いた。
「──っ…」
彼とAは、一瞬だけ視線が交錯した。
そのほんの一瞬ののち、彼はすたすたとAの横を通り、そのひとつ後ろに座った。
Aは動けなかった。
心臓がにわかに加速するのがわかった。Aはある衝動に駆られていた。
──あの少年を、描きたい。
その顔を真正面からとらえられた時間は、一秒にも満たなかった。なのにAの心は、すでに彼にわしづかみされていた。美しいと思った。今すぐに鞄からスケッチブックを出して後ろを振り返りたかった。
普段から気になったモノは描くようにしているが、ここまではっきりと自分が描きたいと感じたのは初めてだった。いま胸の内で疼いている衝動を、すべて白紙にとどめたいと思った。
だが当然、こんな場所で見ず知らずの人間にモデルを頼んだり出来るほどの勇気はないし、常識はずれでもない。嗚呼、日本人の臆病さは、パトスにも勝りしこの哀しき性にあり。
──こんな時、真の芸術家ならどうするのだろう？周りの目も相手の迷惑も考えずに、彼に｢描かせて欲しい｣と頼むものなのだろうか？
(…馬鹿げている、何が芸術家だ。俺はちょっと絵が上手いだけのただの中学生なのに)
幼少期から既に天才的な才能を見せていたピカソとは比べる余地もない。
情熱より常識に生きるAは、ただ黙って拳を握りしめ、欲求を抑えながらバスに揺られていた。
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天泣tenkyu(プロフ) - 読みやすい わかりやすい 面白い 、の三拍子ですね！笑めちゃくちゃ読むの楽しくて一気に全部読んでしまいましたぁ…… (2018年10月11日 20時) (
レス) id: daeb79a243 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(金欠）(プロフ) - 面白かったです。お疲れさまでした！ (2018年2月26日 5時) (レス) id: f13eb61b67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 面白いのに、勿体無いと思います。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 読みづらい。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - めっっっちゃおもろいです!!二人が再会できて良かったです!!更新頑張ってください!!q(^-^q) (2017年12月27日 17時) (携帯から) (レス) id: 76f089da6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺぺこ | 作成日時：2017年10月30日 0時
