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「ふうん……」
若干腑に落ちない感じはあったのだろうが、アオが本気で翼の身体を案じているのは伝わったようで、結城はそれ以上追及はしなかった。
「それより、結城くんはどうしてここにいるの」
「…あー、その」
結城が言い淀んだその時、無情にも授業開始のチャイムが鳴った。
「…はぁ〜、何とか上手くごまかせたね」
「ごめんアオ…俺のせいで」
「はいはい、もう慣れっこだしいいよ」
授業の合間の休み時間、翼とアオと結城は三人で喋っていた。
先程三人そろって授業に遅刻したということで教師に大目玉をくらいかけたが、アオが上手く言いくるめてくれたのである。
「倉野のお陰で助かったよ。ありがとう」
アオは自分だけでなく、結城も翼の看病をしていたことにして彼を助けた。そして更に、持ち前の可愛さで教師を虜にしてしまった。流石である。
「ううん、俺こういうのは得意だから任せてよ。それよりさ」
大きな青い瞳が、結城を悪戯っぽく見上げた。
「結城くん、探し物は見つかったの?」
「えっ」
結城は途端に慌てた。
「な、なんで知って…」
「あっ、やっぱりそうだったんだ。だってあの時、翼を心配しつつ別のことも考えてる感じだったから。屋上の床をきょろきょろ見渡してさ」
「…気づいてたのか」
アオの観察眼と勘の良さには翼も一目置いていた。可愛い顔だからと油断してはいけないのだ。
「探し物ってこれ?」
アオがポケットから取り出したのは、何の変哲もない小さなクマのキーホルダーである。
「!それ…」
「屋上にあったよ。はい」
「…サンキュ」
結城は大事そうにそれを受け取り、アオはその様子をニコニコしながら見ていた。
「…かわいいな、それ」
翼が何の気なしに言うと、結城は慌ててそれをしまいこんだ。
「そっ、そうか?」
「?うん」
アオがにっこり笑って言った。
「かわいいよねえ、それ。結城くんが選びそうにない感じ」
「なっ………」
結城が目を見開いて赤くなった。アオはそんな結城の手を握りながら、彼の耳元でこっそりと言った。
「鮎川さんのこと、色々思うところはあると思うけど…翼とこれからも仲良くしてくれると嬉しいな」
「っ、倉野、お前…」
「今日俺が君を助けたことは、貸し借りナシでいいよ。友達だからね」
「……」
アオはにこっと笑うと、さっさと自分の席に戻ってしまった。
結城はなんとも言えない顔でそれを見つめていた。
「…?」
翼は、二人に何が起きたのかさっぱりであった。
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作者名:ぺぺこ | 作成日時:2019年8月21日 4時