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梅野は木製の椅子に腰掛けるや否や、カフェオレに手をつけずに口を開いた。
「…僕、負けないからね｣
「えっ？｣
梅野は人差し指を自身の唇にあて、愛らしく目を細めた。
「いっぱい教えてね。三島さんも知らない、Aのコト｣
「なんだそれ｣
Aは思わず笑った。梅野はもう、三島の知り得ないAの部分をたくさんこじ開けているというのに。今さらそんなことを言う梅野がおかしかった。
梅野は吹っ切れたように続けて言った。
「僕ね、三島さん好きだよ｣
「へえ。妬けるな｣
「あはは｣
屈託なく笑う梅野の横顔を見て、Aは彼に触れたいと思った。
しかし、同時に、彼を絵に描きたいとも思った。
(こういう時は、どうするべきなんだ？)
Aは葛藤のあげく、バッグからスケッチブックを取り出した。
それを見た梅野は、冗談めかして言った。
「あ、もしかして、ポーズをとった方がいいのかな。ピースとか｣
「あのな、写真じゃないんだぞ。ずっとそのポーズでいる自信あるのかよ｣
「ないなぁ…｣
花畑を背に座る梅野は、Aのイメージ通りに絵になっていた。
これが見たかったのだと、Aは喜びを鉛筆に乗せて梅野を描いていった。
(──あ)
すらすらと手を動かしながら、Aはふと気がついた。
(これは、二人のデートだ…でも、絵の中にいられるのは梅野一人だ)
梅野の淡い色素の茶髪が、きらきらと風に揺れて輝いた。
(きっと、俺じゃこの絵の中には混ざれない。描き手だからとか、そういうことじゃない。このきれいな景色は、花と梅野だけ、だからこそのものだ。俺がこの絵にうつっては台無しだ)
(俺には入れない場所。花と、梅野、二つの存在だけの世界。──梅野の嫉妬って、こういうことなのか？)
自分には入れない──いや、むしろ自分がいないほうが美しい世界。
自分には触れられない、彼らだけの世界。
(そうか。梅野が嫉妬したのは、俺から見たこのスケッチブックの向こう側に、よく似ているんだ)
仲睦まじくするAと三島を見て、梅野は『ここに自分は入れない』と感じた。Aと三島にしか分かりあえない事柄があり、それを嫌だと感じた……。
ようやく自分なりに梅野の気持ちがわかり、Aは自身のふがいなさを静かに噛み締めた。けれどもそれを表には出さず、淡々と梅野を描き続けた。
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すらいみーる@元もちづき(プロフ) - 以前からぺぺこさんの作品を読ませて頂いているのですが、すごくおもしろくて更新とても楽しみにしてます！！！これからもぺぺこさんの一ファンとして応援してます！ (2018年9月11日 23時) (
レス) id: 3b52443fef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺぺこ | 作成日時：2018年4月14日 21時
