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壁にはいくつかキャンバスが立て掛けられており、異国の街らしき絵が描かれていた。
(ここがAの部屋…)
｢ごめん、あんまり片付いてないな｣
｢ううん、そんなこと｣
｢どうぞ座って｣
梅野は、どこを向いてもAの匂いがすることに戸惑った。なんとも言えずどきどきして、緊張しながらクッションの上に座った。
(大した話じゃないのに、部屋まで上がらせてもらっちゃった…)
梅野は申し訳なく思いつつ、Aに話し始めた。
｢前に僕さ、バレンタインにいい思い出がないって言ったよね｣
｢ああ…うん。覚えている｣
｢そんな僕を見ていた兄さんが、僕に思い出を塗り替えるきっかけをくれたんだ。僕がもう、毎年嫌なことを思い出さなくていいように｣
｢…？うん｣
｢だからね…A。これ、受け取ってくれないかな｣
そう言って、梅野は作ってきたチョコタルトを差し出した。
｢えっ｣
Aはびっくりしたように梅野を見た。
梅野が小包を差し出したまま顔を上げられずにいると、Aはそっとその頭を抱き寄せた。
｢…ありがとう。嬉しいよ｣
それからAは梅野の手から小包を受け取り言った。
｢食べてみていい？｣
｢うん｣
Aは小包を開け、チョコタルトを口に運んだ。
｢ん…うん。美味いな｣
｢よかった｣
Aはあっという間に全てを平らげると、もう一度梅野に向かって笑顔で言った。
｢ありがとな。ホントに嬉しい｣
｢う、ううん…｣
梅野は恥ずかしくなって顔を伏せたが、Aがその頤に指をかけて前を向かせた。
｢梅野にもらえるなんて、思ってなかったよ｣
梅野は照れくさかったが、間近にあるAの笑顔が本当に嬉しそうだったので、心からの幸せを感じた。
二人は、そのまま唇を重ねた。
梅野は自身の心臓の鼓動が早くなっているのを感じながら、この時間に酔いしれた。
幸せな気持ちでするキスは、とろけるように甘美な味わいだった。ほんの少しだけ、チョコレートの甘さも感じた。
｢なあ、梅野…今日、泊まっていけよ。明日休みだし｣
｢いいの？｣
｢もちろん｣
｢着替え、持ってきてないな…｣
｢俺の、貸すよ｣
Aと抱き合いながら、梅野は苦笑した。
(本当に、兄さんの言う通りになったな…)
梅野は、Aの腕の中で呟いた。
｢…ありがと、兄さん｣
｢ん？何？｣
｢何でもない」
その日の夜が殊更に甘かったことは、言うまでもない。
甘く塗り替えられた思い出を、梅野はいつまでも大切にした。
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すらいみーる@元もちづき(プロフ) - 以前からぺぺこさんの作品を読ませて頂いているのですが、すごくおもしろくて更新とても楽しみにしてます！！！これからもぺぺこさんの一ファンとして応援してます！ (2018年9月11日 23時) (
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作者名：ぺぺこ | 作成日時：2018年4月14日 21時
