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｢うん。わかったよ｣
瑞季に言われるがままに、梅野は手でチョコレートを割っていった。
梅野は甘い香りに目を細めながら、指先の感触に身を委ねていた。
ぱきっ、ぱき、とばらばらになっていくチョコレートが、苦い過去と一緒に砕けていく気がした。耳朶に伝わる振動が心地よい。
この世にいるただ一人を想いながら、作業に耽っている。
これは尊いのだろうか。
それとも自己満足なんだろうか。
何のためにチョコレートを作るんだろうか。溶かして固めて渡すだけの行為に、何の意味があるのだろうか。
(でも、僕が今女子たちの立場に立って、誰かを想いながらチョコを作っているのは間違いない)
｢…｣
(喜んでくれるかな…)
結局重要なのは、その一点だった。
梅野はあれこれ考えたが、要するにAが喜んでくれればそれでよかった。
｢次は、生クリームを火にかけて｣
瑞季は料理本を見ることなく、和歌でもそらんじるように梅野に指示を出していく。
今回、瑞季は横で見ているだけだった。梅野の作業に一切の手出しをしていない。
梅野はくつくつといい始めた生クリームに、チョコレートを投入した。
溶けたチョコをかき混ぜると、白黒マーブル模様から均一なブラウンに変わっていく。
それを慎重にタルトカップに注いでから、冷蔵庫にしまった。
一時間後、瑞季が言った。
｢そろそろ取り出していいんじゃないかな｣
梅野が冷蔵庫から取り出したチョコタルトは、しっかりと固まっていた。
仕上げにココアパウダーを振りかけると、だいぶそれらしくなった。
箱に入れて簡易なラッピングを済ませると、瑞季が茶化すように言った。
｢あれ。いいの？おまじないしなくても｣
｢え？おまじない？｣
｢ラッピングにキス｣
｢なっ…に言ってんの、兄さん｣
｢僕後ろ向いてるから。いいよ？｣
｢いや、しないからね｣
｢えー。つまんない｣
｢うるさいな｣
(別に、そんなことしなくたって…)
チョコをAに渡した後の展開を考えると、梅野は自然と顔が熱くなるのを感じた。
それを目ざとく発見した瑞季は、弟をからかった。
｢あれ、なに赤くなってんの。やらしいことでも考えてた？｣
｢…考えてないし｣
あながち的外れでもないことを言われて、梅野はますます赤くなった。
そんな弟の背中を押しながら、瑞季は言った。
｢まあ、早めに行っておいでよ。…なんなら、そのままAくんの家に泊まってもいいし｣
｢…だから、からかわないでよ｣
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すらいみーる@元もちづき(プロフ) - 以前からぺぺこさんの作品を読ませて頂いているのですが、すごくおもしろくて更新とても楽しみにしてます！！！これからもぺぺこさんの一ファンとして応援してます！ (2018年9月11日 23時) (
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作者名：ぺぺこ | 作成日時：2018年4月14日 21時
