しょうもない矛盾 高杉side ページ10
「…なァ万斎。俺ァ本当にしょうもねェ矛盾をしていたらしい」
と、俺は呟いた。その声を海風がさらっていって、すぐにその声は本当にあったのかすら分からなくなる。声は単純に身体から発されたものが空気を振るわせているだけのもので、形には残らない。その言葉が確かにこの世界に放たれたのかなんてことを確信することはどうしたって出来ないのだ。言葉というのはそれほど、曖昧なものなのだと思う。もしかしたらそれは俺が内心で呟いただけのものかもしれない。そうではないと証明できるものなんて、俺は何一つとして持ち合わせていない。けれど、万斎は、笑いながら頷くことで、俺の言葉が声となってこの世界に生まれたことを証明した。
滑稽で仕方がないとでも言いたげに笑っては、「そうだな」と。
「…というより、今更気付いたでござるか」
「あァ。今更だ」
…いつだってそうだ。何かに気付くのはいつだって、すべてが終わったあとだ。どうして今まで気付けずにいたのだろう。どうしてわからなかったのだろう。こんなにも簡単なことを。どうして見落としていたのだろう。
こんなことは、ずっと前から分かっていたことで、気付くためのものは、すべて俺の中にあったというのに。
「…俺は、知らぬ間に俺の理想を、歪めようとしていたんだな」
……俺は、Aを愛している。
強くて、弱くて、優しくて脆くて、純粋で何処までも真っ直ぐなままのAのことが好きだった。今でも大切で、護りたいものだ。何よりも誰よりも、愛しいものだ。転んでしまいそうなほどに勢いよく駆け出して、自分が望む未来を手にしようと。その未来を信じて突き進んでいくその姿に、俺は目を奪われていた。それ以外が見えなくなるくらいに、その眩しさに囚われていた。
…Aが自分の信じた道を迷うことなく真っ直ぐに歩いていく姿は、この月の光のように、気高くて美しい。それなのに。
──俺はそれを、自分で壊そうとしていたのだ。
Aを自分の傍に置きたいと願うばかりに、アイツが信じて進もうとする道を塞いで、奪おうとしていた。それは、俺が愛したものを、壊す行為だった。それを俺は、さっきまで気付けなかったのだ。本当に、馬鹿なことだ。
…俺はそう。あの、振り返ることなく進んでいく、あの背中を見たかったのだ。ずっと。
「…Aは、俺に会えて良かったと言った。俺にも、一緒に居てくれてありがとう、と言った」
「…そうか」
本当に、何処までも優しくて、真っ直ぐな女だったな、と。万斎は言った。俺はもう、何も言わなかった。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時