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言い忘れ ページ19

「…私がここに居なかったら」

「え」

「…そんなことを思ってたんじゃないですか?」


唐突に私がそう指摘してみせると、土方さんは小さく肩をピクリと揺らして反応した。やはり、私が思ったことは間違っていなかったらしい。私の指摘に図星ですと言わんばかりに視線をあちらこちらに彷徨わせていて、頷くことも否定することも忘れてしまっているみたいだった。こんなの、「んな訳ねェだろ、これ以上消えてみろ切腹させるからな」とかなんとか言って、適当に流してくれればいいのに。そう言って見せられないくらいに、きっと彼はこの一週間と数日、追い詰められていたのだろう。私が何も言わずにいきなり居なくなったことに狼狽えて、戸惑って、必死に探してくれていたのだろう。鬼兵隊の船内で私を見つけ出した時の彼の表情は、そのことを物語っているように思えた。安堵と憔悴と希望と絶望。色んなものが絡まっていたように見えた。

私は苦笑のような笑みを浮かべた。あるいは、少し困ってしまったのかもしれなかった。もっと軽く受け流してくれると思っていたものだから、こんなに新穀な表情をされて、私が戸惑ってしまった。


「大丈夫ですよ」と、私は呟く。


「もう、居なくなったりしませんから」


…だって、居なくなりたくないもの。真選組から離れるなんて、耐えられないもの。彼に会えないなんて、もう嫌だもの。ここが私の居場所で、私を待っていてくれる人達が居る場所で。だから、何があったってここに私は帰ってくる。


「そういえば、言い忘れてましたね」

「…何をだよ?」


とても、大事なことを言い忘れていた。きっとまず言わなければならないことだったのに。


「…ただいま戻りました、土方さん」


…帰ってきたのだから。この言葉を言わなければならなかった。病院に行ったり、退院して疲れ果ててうだうだしながら屯所に戻ってきたものだから、忘れてしまっていた。彼を見上げて、自然と浮かんできた笑みを見せ付ける。どうか、安心してほしかった。

これから、何があっても、どんなことがあっても、私はここに帰ってくると。『ただいま』と言って不敵に笑って帰ってくることを、彼に伝えたかった。


土方さんは数秒ほど、なんだか呆気に取られたような顔をして。そうして、目を伏せて、少しだけ笑ってくれた。


「…おかえり」


そんな言葉を、当たり前のように交わし合えたなら、きっと幸せだろう。その幸せをしっかりと受け止めるように二人で笑い合って、彼はこちらに歩み寄った。

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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 真選組、攘夷   
作品ジャンル:アニメ
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2018年6月14日 19時

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