＃08 わざと。 ページ8
｢としみつくん！お疲れ様です｣
｢ん、Aちゃんもお疲れ様です｣
｢あとちょっとで飛行機乗れるなんてウキウキで全然仕事が手につかなかったです！！｣
｢それはそれで可愛いので許します｣
Aちゃんがいつも通りに助手席に座って、シートベルトをしたのを確認すると車をだす。
いつもの仕事帰りの車なら、今日あったこととかを話すけど、今日は｢楽しみだなぁ｣しか言わない機械になってしまったみたいだ。
今日は流れてる音楽に鼻歌までついてる。
｢はい、持てる？｣
駐車場でトランクからスーツケースを下ろしてAちゃんにパスする。
結構重いな、女の子は荷物が多くて大変だ。
｢持てる？ってとしくん！！コロコロ付いてるから大丈夫よ？｣
｢あっ、そうだった｣
｢ふふっ..としくん大丈夫？｣
｢かんっぜんに浮かれとる笑｣
上品に笑いながら｢としくんかわいい｣って言ってるAちゃんの横でちょっと恥ずかしくて口を手で抑えて笑う俺。
うん、完璧に周りから見たら仲良しカップルだな。
｢さあ、行きますか？｣
そう言って右手を出すと、Aちゃんの左手が重なって、今日もふわふわ、Aちゃんの手は俺の手をギューッと握った。
｢あ！！としくん！てつやくん！｣
搭乗ゲートがあくまで、売店を見たり空港を探検したり。
一通り回ったら時間まであとすこし。
椅子に座ってあの付箋だらけの沖縄ブックを見ていた時だった。
Aちゃんが、俺の大好きな笑顔で、この旅で俺が一番嫌な存在を指さした。
｢ああ、Aちゃん！ってことは？｣
このわざとらしい声。
てつやはかけてるグラサンをちょっと持ち上げて、ニコッと笑った。
｢としみつじゃん！｣
｢虫くんもいたの？｣
｢Aちゃん、こんばんは！ゆめまるもいるよ｣
｢ん？りょうくんは？｣
ねえ、普通に入って来ないでよ...。
てつやの登場の仕方といい、この入り方といい絶対わざとやん。
Aちゃんがいい子なのをいいことに、邪魔しかしない気か？！
｢りょうたちは先に行っちゃったの｣
｢え？どこに？｣
｢それはお...ちょっ！としみつどした！｣
てつやが｢沖縄｣と余計なことを言いそうだったので、バッと立ち上がっててつやの顔が目と鼻の先にあるくらいまで近づいて口を手で塞いだ。
｢てつやたちは飛行機に乗らないの、空港に来ただけだって！｣
｢そうなの？｣
またつまらん嘘言っちゃった。
向こう出会うなんて絶対ないだろうしいいか。
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作者名：Ma
| 作成日時：2018年9月12日 12時
