文豪ストレイドッグス短編集 (ページ4)

今日:7 hit、昨日:1 hit、合計:6,036 hit

条野採菊ページ4

「貴女莫迦なんですか」
響くのは彼の優しくもきつい怒声。
今日で7回目だった。犯罪者に情けをかけて不意を討たれた。
「すみませんでした」
謝る。其れだけ。彼には私の心音は如何聞こえているのだろうか。
「犯罪者の多くは反省などしていない。私を見れば分かるでしょう？」
元犯罪組織の幹部である彼は嘲笑うように言った。
「でも、条野さんは優しい人です」
否定する場面ではないことを知っている。でも、此処で否定しておかないとこれからずっと
条野さんは悪い酷い人と私が思っていることが前提になってしまう。
ぬるい、光の世界で生きて来た私を条野さんは上司として教育してくれながらも
一線を引かれていた。
国民の為に護る仕事に就いた彼は凄くかっこよかった。
「優しい？まさか。勘違いです」
「勘違いじゃないんです！条野さんは強くて、優しくて、かっこよくて、頭も良くて、誰かのために戦えて、善い人なんです！間違っても、己を否定するようなことを云わないでください！」
叫んでから気付いた。自分が物凄く変なことを叫んだことに。やってしまった。
私は慌てて部屋から飛び出し、給湯室に逃げた。
きっと私の心音は面白いことになってるに違いない。

「のぉ、条野。なかなか良い愛の告白では無かったか？」
あれだけ大声だったからか、燁子さんが直ぐに部屋に入ってきた。
「ええ、なかなか面白かったです」
彼女が私に好意を向けていることには気付いている。彼女の心音は分かり易く動揺する。
「面白かった、か。お前も鈍いな」
「彼女の心配をしている事でしょう。らしくない、とでも？」
流石、燁子さんはお気付きだ。
「恋は盲目、と云うでしょう」
燁子さんの心音が変化する。
「お前…其れを知って遊んでおるのか？」
其れはまるで呆れているような。
「燁子さんも隊長に遊ばれているようなものでしょう」
殺気が飛んできたが無視する。
「殺すぞ？」
「分かってて遊ばれているというのに？聞こえていますが」
「お前の耳は何時か削がねば」
「お戯れを」
恋はするものではなく落ちるもの。誰が言ったのだろうか。
「まあ、彼女を慰めてあげにもいきましょうかね」
「鐵腸にとられかねんからな」
「冗談はやめてください。…大丈夫です。既に先刻見回りに行かせましたから」
「其処は手を打っておるのか…隊長は？」
「あの人に慰められるのは燁子さんだけです」

ふふ、と笑みを漏らす彼は既に落ちるとこまで落ちているようだ。