文豪ストレイドッグス短編集 (ページ11)

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オレンジ森鷗外ページ11

君のいる世界で笑ったこと。
君の見る未来を恨んだこと。
君の声、温もり、態度、愛の全てが…

軍をやめて町医者となった森さんと私が出会ったのは1年前の事。
彼から「海に行こう」と誘われ海の見える街へ来ていた。
塩気を含んだ潮風にやられ、赤錆びた線路沿いを二人、手を繋いで歩いていた。
二人で笑いながら、遠くの島と朝焼けを見ながら、「幸せだね」なんて言っていた。
嘘だったんだね。
貴方がポートマフィアとかいう反社会的組織に入ろうとしていることをその時知らされて。
「別れよう。其れが君の為だ」なんて。
何処までも付いて行くのに。教えてよ。荷物を預けてよ。
君の事を愛しきれない。つられて泣く私も弱いのに。
代わりなんてないって、特別だって、許し合えた日ももう戻らないんだ。

もう二人に明日は無いことも心の奥に隠してしまおう。
私が裏社会に入るということは彼女を危険にさらすということなのだから。
残される君に届く唯一つの言葉が見つからずに行ってしまったしまったあとも探していた。

数か月後。私は何者かに攫われた。彼らは私を拷問して森さんの情報を聞き出そうとしているようだ。
此処で、私の人生は終わりだ。
森さん、覚えていますか？初めて会った日の事も。貴方のの嘘も、甘えも、弱さも。
軟禁されている部屋の小窓から流してゆくような朝焼けの光が入ってくる。
記憶の中の貴方へ。あの日のように君はまた素敵に変わってゆくんです。
私は自死を選びます。貴方に迷惑はかけられないから。本当はこれを防ぎたかったんでしょう？
歳月が巡って、若し生まれ変われるとしたら。声を辿って真っ先に貴方に会いに行きます。

愛していました。
部屋にあったガラスの破片を自分の頸動脈に当ててそう呟く。
最後まで。この日まで。
本当に愛し合っていたのに。幸せだったのに。
それでも終わりにするのは私なんですか？
貴方の幸せを、目的の達成を、唯、唯、願っています。

彼女の死の一報を私が耳にしたのは、敵対組織の元アジトを捜索した部下の報告書であった。
其処には彼女の特徴と、自死を選んだという事実だけ。
私と彼女が付き合っていたという過去を知るの者は居ないはずだったから。
私の情報くらい話してくれても良かったのに。
君に勝る情報も命も平和もないのに。
これを考えるのも今日で最後にしよう。
君のいる世界で笑ったこと、
君の見る未来を恨んだこと、
君の声、温もり、態度、愛のすべてに

さよなら。