【テニスの王子様】幼なじみの壁【幸村精市】 (ページ37)

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『せーいちー。来たよー』

幸「A。いらっしゃい。」

いつものように難しげな本を片手に精市が振り向く

『今日の調子はどう？』

幸「まぁまぁかな。Aは？」

『私はいつも通りだよ。でも今日は一段と暑くてね〜…どうしたの？暗い顔して、気分悪い？』

今日の精市はいつもより苦しそうな顔をしていた。悲しそうにも見えた。

少し俯いたあと、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた

幸「…あのね。手術の日が決まったんだ」

『…ｯ？！そうなんだ。その手術ってどんなの？』

おそるおそる聞いてみる。
返ってくる返事が怖いけど、聞かないと一緒に乗り越えられないって思った。

幸「俺も詳しいことは聞いてないんだけど、成功率は低いんだって。それに、もし失敗したら、テニスをすることは本当に諦めなきゃいけないって…」

『精市…。』

きっと心の中で思ってるはず。

早く治してテニスをしたいって。
全国に行きたいって。

『私は精市が全国大会に行って、決勝まで勝ち抜いて王者として立ってるのが見えるよ。だから、一緒に頑張ろう？』

幸「どうしてそんなことが言えるの？手術、成功しない確率の方が高いんだよ。これは、やっても意味があるのかどうかわからないんだ」

そんなことないって否定したかった。
だけど、精市の言ってることも正しいと思ってしまう自分がいた。

でも、これを受けないと治るかもしれないものも治らない。

一か八かの一本勝負。

少し光が見えてるんだ。
精市の大きな手を両手で包む。

『精市はラスト１ポイントで勝てる試合で最後の最後に棄権する？』

え？と精市が顔をあげた。

『私はしない。一本を決めるにはたくさん悩んで、競り合ったりしなきゃいけない。それが今なんじゃないかな。』

両手で包んだ精市の手は小刻みに震えていた。
ごめんね、怖いよね。
沈黙が流れるなか、私は続けた。

『最後の１ポイントをとるのは精市がまたコートに立った時。そのためには病気と全力で闘うことが今やるべきことじゃないの？』

幸「今やるべきこと…。そうだね。成功も失敗もやってみなきゃわからないもんね」

ふぅっと精市が息を吐く。何かを決意したかのように。

幸「俺、手術頑張るよ。俺は負けない。この先もずっと」

『うん！精市なら大丈夫。だって私の自慢の幼なじみだもん』