All day

零時 ページ2

雪が降り始めた、午前零時。







今年初めての、いわゆる初雪がネオンライトが照らす街を白く染めて行く。




目が痛くなるほどの光と忙しなく行き交う人の影。

横断歩道の信号が色を変え、しばし止まっていた波が
動き出しても立ち尽くしたままだった。



「ちっ」

邪魔だ、と言わんばかりに舌を鳴らしてぶつかった人が足早に去って行く。

迷惑そうに何人かがこちらを訝しげに見ては歩いて行く。




__この殺伐とした町からじゃ

　 星は見えない。

星を探して彷徨わせた視線も泳ぎ疲れてまた下へ落とされる。








【…ごめんね。】


私よりもずっと苦しそうに。

怖いくらい優しい彼が

ぽつり、呟いた言葉が静寂に落ちた。



あの瞬間が、頭の中で壊れた映像機のように何度も再生される。




終わったんだ。







怖いくらいに好きだった。


愛し過ぎていた。







携帯を見ればメンバーやスタッフからの着信履歴。



その中に、彼の名前はない。




一つ残るのは、


【今から会える?】

別れを告げられる前のメッセージ。

浮き足だって行かなければ良かった。


聞かないふりをすれば良かった。



私だけが夢中になっていたの? 自問自答。
繰り返しても意味はないのに。


君は、最初から。



嫌、違う。




彼は中途半端なことをする人じゃない。
そんな事は誰より知ってる、だから。



痛いほど、分かる。


勢いに乗って来たばかりの彼が、恋愛なんてしてはいけなかったこと。

その相手が、事務所内の人間だなんて。



例え、どんな理由があっても。



同業者よりも、もっと冷たい、悲しい関係。絶対に交わらない私達は、こうなるしかなかった。



最初から、好きになんて。

こんな思いをするならいっそ通じ合わなければ良かった。


彼の夢を私は潰してはならない。

私は支える存在で、彼は光を浴びなくてはいけない存在。



光が当たれば影も差す。



世間の目は増えて、脚光の数だけ闇が生まれる。









はにかんだ彼の笑顔。

真剣に踊る表情。

色気の増した目。

逞しくなった体付き。

低い声。

ふわふわの髪。

彼がくれた、数々の言葉。




全部覚えてる。





涙は、不思議なくらいに出なかった。





【そっか。】


気の利いた一言も出なかった。


声は掠れた。後悔ならば、幾らでも。









ありがとう。



愛してくれてありがとう。



“樹。”


愛した彼の名前を呼んだ声は、




行き場を見つけられず消えた。

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