03.カツラ事件 ページ5
『(待って、どういう状況だよこれ)』
Aが体育館に着くと何やら騒がしい様子で、チラリと中を覗いてみると日向と黒髪の男子、上級生っぽい3人、教頭がいた。
教頭がいるにも関わらず日向と黒髪が言い合っており、これは入りづらい…と困っていると、黒髪が思いっきりジャンプサーブを放ち日向の手にボールが当たったかと思えば教頭のカツラを吹っ飛ばしてしまう。
衝撃すぎて「え…」と小さく声が漏れた。
じわじわとウケてきて吹き出しそうになるのを堪えているとうっかり物音を立ててしまい、体育館にいた全員がこちらを見た。
『(やばっ……)』
「そこに誰かいるのかね?!」
逃げ出したい気持ちでいっぱいになるが教頭がすごい剣幕でそう言うため渋々中に入ると、日向が「神崎さん?!」と驚く。
サーブを打った黒髪も上級生たちもAを見て思わず目を見開いた。
今年はこんな綺麗な女子が入ってきたのか、と皆が衝撃を受けていると教頭が「君はバレー部所属か?」と問う。
『いえ、あの、日向くんの落とし物を届けにきただけで…』
そっとポケットから学生証を取り出すと、日向が「あ!」と声を上げる。
「ふん、まあいい。取り敢えず君もこちらへ来なさい。澤村くん、ちょっといいかな」
澤村と呼ばれた上級生と教頭が話している間にAは日向に学生証を渡す。
「わざわざ届けに来てくれたんだな!ありがとう!」
「君、1年だよな?ごめんな。なんか巻き込んでしまって…」
色白の温和そうな上級生がそう言うと、Aは小さく「いえ…」と返事する。
坊主の上級生がソワソワした様子でガン見してくる為肩をびくりと震わせると、色白先輩が「田中やめろ」と小声で言う。
「神崎さんギター弾けんの!?すっげえ!!かっけえ!!」
Aが背負っている楽器ケースをみて日向が目を輝かせながら言った。
『ああ、これベース。兄貴がここの軽音部でさ、新入生の前で演奏するのにベーシストが不在だから今日だけ助けてくれって縋り付いてきたんだよね』
私も新入生なのにね、と笑う顔を見て周りが皆かたまる。
彼女は笑うとこんなにも可愛らしいのか。
お兄様とでも言い出しそうな雰囲気を纏っているのに兄貴呼びなのか。
視線を感じ、Aはぱっと口元をおさえ驚く。
人見知りしてるものの、日向のキラキラの瞳と人懐っこさのお陰で気づけば少し素が出ていた。
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作者名:花雪 | 作成日時:2024年3月13日 22時