14.フルネーム ページ16
『あのさ…あの人が影山くん、だよね…？』
少し声のボリュームを落としてAが言う。
先ほどから視線と圧がハンパない。
呪文のような早口言葉も聞こえてくる。
「バレーいつから始めましたか？もうやらないんですか？あの無駄のない動き尊敬します。サーブのコツとかありますか？他のポジションは経験せずはじめからセッターだったんですか？」
「影山の奴、神崎さんが元選手ってこと知ってんのかよ」
『なんか恥ずかしい…』
「影山、話したいのなら堂々と話せよ」
菅原にほいほいと背中を押され影山がAの目の前へと来る。
緊張で顔が強張っているのが面白くて日向はぷぷっと笑った。
「俺！影山飛雄っていいます！セッターやってます！前にテレビで神崎Aさんの試合をみて、それからずっと尊敬してます！！まさか同じ高校でしかも部活で会えるとは…！！」
「なんか、限界オタクみがあるね」
「王様の必死さウケる」
山口と月島はひそひそとそんなことを話す。
『あ、ありがとう。私もバレー好きだから、これから色々話そうね』
人見知りを発揮し無表情だが優しい声のトーンでそう伝え、影山の全力な「よろしくお願いｼｬｽ！！！」にビビるA。
「神崎A…さんは、もうバレーやらないんスか？」
『全国優勝してからは引っ越しや受験もあったし全然やってなくて…。外からプレーをみたり色々お手伝いしたりする側に回るのも楽しそうだなと思ってマネージャーになったの。でも、もしよかったら時間ある時にでも一緒にバレーしよう、影山飛雄くん』
「本当ですか…ッ！！是非お願いします！！」
「お互いフルネーム呼び…」と月島が笑うと「フルネームで呼ばれるのちょっと苦手だから真似ちゃった、」とAが言う。
((なんだそれ、かわいっ…！！！))
上級生を中心に心をギュンと鷲掴みにされ悶える者がいる中、影山が口を開く。
「お、俺にとって神崎Aは神崎Aだったから、つい……あ！なら、怪物…」
『あの、えっと…それはもっと嫌』
ムッとした表情は普段とはまた違った可愛らしさがあるが、圧のようなものを感じ思わず影山は後ずさった。
『怪物って異名、あんま気に入ってないから。普通に苗字か下の名前で呼んでほしい…です』
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作者名：花雪 | 作成日時：2024年3月13日 22時
