風光る 2nd【HQ】

70.授業参観 ページ32

ドラムの音を合図に演奏が始まった。


ギター等と比べるとベースの音は目立たないが、意識してみると素人耳にもよく聴こえる。

出音の凄さに音楽通の月島もハッとした表情になり、なぜか日向と影山がドヤ顔をした。


ボーカルの棗が歌いだし、流石の上手さだなあと思えばAもコーラスで参加し始めてこの子は歌も上手いのかよと皆驚いた。

高校生バンドといえば疾走感ある青春ソングを演奏するイメージがあるが、神崎兄妹たちが選んだ曲は明るさの中にも哀愁のある曲で、それをＴＨＥ陽キャの棗が歌唱しているのがまた良い味を出している。

Aはというと、相変わらず伏し目がちだが慣れた手つきで演奏を続けている。
緊張していてもパフォーマンスに影響が出ないのは、彼女の長所の一つだろう。


「スガ、Aのことばっか見てんな」

「ほんと好きなんだろうな」

東峰と澤村がそう話しているうちに１曲目が終わり、拍手が鳴り響く。


バンドのイベントといってもライブハウスのような場所ではなく自由に出入りできるような公共の場で開催しているので、ウェイウェイした空気すぎず、でも寂れてもなく、治安のいい雰囲気でバレー部一同も気楽に楽しめている。

拍手が落ち着いて、棗が「今日は来てくれてありがとう」とニカっと笑った。
イケメンスマイルにファンはメロメロだ。

いつもならそういう場面を見て悔しそうにする田中は、棗がAの兄ということもあり大人しい。


「ベースのマサキが怪我で参加できねえから、今日は妹のAに助っ人お願いしてます。可愛いだろ」

ニヤニヤ顔でそう言うと、会場が盛り上がる。

「なんか皆んなに話したいことあるらしいから聞いてやってくれる？ここで話させてあげる代わりに残り２曲はAにボーカル担当してもらうから楽しみにしててな〜！」

ボーカルだと？！と皆んな驚く。

A本人は悔しそうな顔で棗を見てからマイクに向かって話し始めた。


『マサキくんの代わりにベースやらせてもらってるAです。普段は兄と同じ烏野学校に通っていて、バレー部のマネージャーしてます』

拍手や「Aちゃん可愛い」という声に少し目を丸くして若干はにかむ様子は色んな人のハートを撃ち抜いただろう。

バレー部一同は、子どもの授業参観を見守る親はこういう気持ちなんだろうなと思い始めた。

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