拒否という選択肢はない ページ31
.
心臓の音が耳に脳に響いて煩い。こんなに速く動くなんて私の心臓は大丈夫なのかな。寿命が縮んでしまいそうな程で少し心配になる。合わさった額と掴まれた手が異様に熱くて、視界がどんどん狭くなる。熱っぽい視線がずっと向けられて甘い声で名前を呼び、強請られてしまっては応え無い訳にはいかない。
『 っず…るいですよ……衛輔…さん…っ 』
振り絞って出た声はとても小さく、弱く、其れでも夜久さんの耳にしっかり届いた。掴まれて居た手に少し力が入る様ぎゅっと握られ、少し吃驚して肩が跳ねる。夜久さんの顔が、唇があと数cmという処迄来て、急に視界から夜久さんが居なくなった。
「 あんまり二人の世界に入らないでもらえます〜？」
鉄兄の少し呆れた表情が視界に入ってﾊｯとする。周りから向けられる痛い視線を感じ、恐る恐る振り返って見ると、山本先輩や芝山くんは顔を真っ赤にしてあわあわしてるし、研磨くんは興味無いとでもいう様ないつもの感じだけど、烏野の人達もほぼほぼ顔を赤くして此方を見て居た。助かったのは監督やコーチがこの場に居ない事。
「 ……やっべ… 」
夜久さんのやってしまったという呟きに鉄兄が大きく溜息を漏らし、此方を見ている皆へ向かって " ちゃっちゃと片付けに入るぞ〜！ " と声を掛ける。慌てて皆がぞろぞろと片付けに向かい出すと鉄兄に頭を雑に撫でられた。
「 お二人さん、TPOはしっかりな 」
「 悪ぃ… 」
『 うっ… 』
鉄兄が其の儘皆の元へ戻るのを見送りながら私と夜久さんも立ち上がり、少し沈黙が生まれる。先に口を開いたのは夜久さんで、少し申し訳無さそうな困った様な表情を浮かべて居た。
「 また歯止め効かなくてごめんな… 」
『 あ…い、いえ、私も…また逃げようとしなかった…から… 』
恥ずかしさで熱が顔に集まるのを隠す様に夜久さんに渡す予定だったタオルを顔に押し付ける。
「 ……次さ、またAに触れたいって思った時は…ちゃんと許可取るから 」
『 え…っ 』
夜久さんの言葉に咄嗟に顔を上げると横に居た筈の夜久さんが目の前に立って居てどくんとまた大きく心臓が跳ねた。
「 OK出なかったらちゃんと止めるから、駄目だったらNOって言って 」
どんなに苦しくても恥ずかしくても其の夜久さんの瞳から逃げる事は出来なかった。其の提案は意味が有るのか。だって、好きな人に触れて良いか聞かれてNOと答える筈も無い。でもそんな事夜久さんは知る由もないから、私は頷くしか無かった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 147人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：omo | 作成日時：2024年3月25日 12時
