二人だけの世界があるとするならば ページ30
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明らかに瞳を泳がせて言葉を探して居るAに少し悲しくなった。俺そんな駄目だったか。いつもはもう少し褒めてくれるから今回も期待して居たのだが、其の考えは甘かったらしい。逆に指摘が多いのだろうか。次に発せられる言葉を待つ事にした俺は、ストレッチが終わったので、先程受け取ったスクイズボトルへと手を伸ばした。
『 …6セットもやって…凄い体力の消耗が激しかったと思うんですけど…… 』
やっと口を開いたAに視線を向け耳を傾けながら水分を喉から伝わらせて身体の中で冷たさを感じた。少し俯き気味な所為か表情が読み取れない。顔を覗き込もうとスクイズボトルから口を離した瞬間、少し顔を上げたAと視線が交わった。
『 ……どのセットも……全部…、か……かっこよかったですよ…も、衛輔…さん… 』
「 は……〜〜っ！」
どくんと大きく心臓が跳ねて、熱が顔全体に広がる。Aも恥ずかしさの所為なのか顔が真っ赤だ。少し涙目になったかと思えば " い、以上です！" と立ち上がろうとするAを逃がさ無い様に手を掴んで下に引き寄せた。少しよろけた彼女は俺の目の前の床に手をついた所為で、顔が凄く近くなる。
「 …言い逃げさせてたまるかよ… 」
『 っ……ち、かい…です 』
「 A、目逸らすな 」
『 …や…夜久さ…っ 』
「 ……衛輔 」
『 ぇ…っ１回だけって言ったじゃないですか…っ 』
「 …もっかい呼んで 」
『 む…むりですっ… 』
また顔を逸らそうとするAの頬を両手で覆い、無理矢理此方を向かせると瞳が潤んだ彼女と目が合う。やばい。此れはまた踏み込んで仕舞う気がする。俺の理性というものはどうも脆いらしく、今にも引きちぎれそうだった。
「 A…お願い 」
『 っず…るいですよ……衛輔…さん…っ 』
ぐっとまた引き寄せてお互いの額を合わせながら強請るとAの瞳が揺れて、もう一度俺の名前を呼んだ。どくどくと加速する心音が身体全体に響いて周りの音が一切聞こえ無くなる。俺の手に少し力が籠るとAの肩が少し跳ねて目を見開く。其の瞳に吸い込まれる様に顔を近付けた。もうあと数cmで互いの唇が触れそうになる直前で俺の頭に重みが掛かり、ガクンｯと目線が下へおりた。
「 あんまり二人の世界に入らないでもらえます〜？」
此の重みの正体が黒尾だと分かり " っにすんだよ！" と顔を上げると周りに居た音駒だけで無く、烏野の面々からも視線が注がれて居た。
「 ……やっべ… 」
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作者名：omo | 作成日時：2024年3月25日 12時
