始まりの音がする。 ページ26
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「 ぃってぇ… 」
『 鉄兄が夜久さんに変な事吹き込むから！』
「 まだなんも言ってねーよ 」
途中からだけど鉄兄が夜久さんに紡ぐ言葉で少しずつ私の事だと理解して焦ってしまった。夜久さんの前であんまり変な事言わないで。それに、鉄兄の事を叩いたりする処を見られて暴力女だとか思われたく無いのだから馬鹿な行動は止めて欲しい。頬を膨らませて鉄兄をぐいぐい押して夜久さんから少し引き剥がす。ひょこっと可愛い擬音が鳴る様に夜久さんが横から顔を覗き込ませては気になって居るであろう質問が声に出された。
「 んで？誰のおかげなんだ？」
『 え゛』
私は声とか態度に凄く出てしまい易いらしい。明らかに動揺してますといった声が出てしまって目が泳ぐ。言葉に詰まって居る処で再開の合図が鳴り響いた。おかげで、助かったと密かに安堵するも顔を覗き込まれた儘 " かっこいーと思ったらついでに教えて貰うからな " と仕返しの様に悪戯っぽく笑った。
『 っ…… 』
軽率に其の笑顔を振り撒くのは止めて下さい。私の心臓が持ちません。心臓辺りの服をぎゅっと握り締めながらぎゅうううと締め付けられた心臓に向かって落ち着けと心の中で呟いた。試合中にこんな気持ちになるのは良く無い。今はマネージャーで、ちゃんと皆の状態等を把握しなくてはならない。深めに深呼吸をして心を落ち着かせ、其れ以降の試合に集中した。
それにしても、犬岡の翔陽へ追いつくスピードというのは才能だと思う。此れからも翔陽相手じゃ無くても、速い攻撃を武器にしている選手と対立した時、あの高さと才能は必要だ。研磨くんも何処かいつもの試合寄りも集中して居る気がするし、鉄兄も山本先輩も皆の調子が良さそうだった。
『 良い感じですね 』
「 あの状況で笑顔を見せた10番は怖いけどなぁ？」
監督の言葉に先程犬岡に止められ、捕まえられた時の翔陽の顔は皆が少し恐怖を覚えた瞬間だったと思う。其れを思い出して少し笑顔が引き攣ってしまう。然し、翔陽だけじゃ無く、烏野の攻撃力というのは凄まじく、何よりあのセッターとリベロのレベルの高さが伺えた。
『 …良い関係になりそうですね 』
「 ふははそうだねぇ、因縁とは関係なしに良いライバルになれたなら… 」
『 うちとしても好機… 』
其の儘続けて発すると、監督は私の言葉に少し笑いながらゆっくりと頷く。私もこれからの皆の関係を想像して、床を蹴る音やボールを拾う音を耳で拾いながら自然と頬が緩んだ。
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作者名：omo | 作成日時：2024年3月25日 12時
