声を聞かせて ページ1
恐る恐るドアを開ける。
まっすーは俺に気づいてにこっと笑う。
『手越、わざわざありがとう。』
机に置いてあるノートにそう書いて俺に見せてきた。まっすーみたいな丸っこい可愛い文字。
「うん、」
そう言いながら椅子に腰かける。
真っ白なベッドに座るまっすーは、いつも通りにこにこしている。
でも、一つだけ違うことがある。
まっすーは声が出せなくなってしまった。
事故が原因って担当の先生が言っていた。怖くて詳しい話なんて聞いていなかった。
「まっすー元気？」
『元気だよ！どうしたの急に？』
俺が何か言う度にノートに文字が増えていく。時間がかかってしまうけれど、俺は待つよ。ノートには可愛い落書きもされていた。
「会うの久々だったから、元気かなって思って。」
ちょっと忙しくてね、なんて言うけれど本当は怖かったから。
仕事も無かった。こんな状態で仕事なんて出来ない。
『そうだね』
まっすーは笑った。その目は赤く腫れていた。本人は気づかれていないと思っているだろうけど、俺には分かる。まっすーは泣くとすぐ目元が赤くなるから。きっとさっきも泣いていたんだろう。
NEWSをこれからどうしようか、決めなければいけないけれど、誰もそれについて触れようとしない。あえて遠ざけている。この現実と向き合いたくないのだ。
この間の音楽番組。あれが4人での最後の歌になってしまった。
何時間もある特別番組だったから、事務所の先輩後輩も沢山いて、楽屋の壁が薄かった。
出番まで待っていたら、まっすーが居ないことに気づいた。
携帯は楽屋に置いてあったから、廊下を歩き回ってまっすーを探した。
まっすーはろうかのずっと奥にいた。人気のないところ。何しているんだろうと近づくと、少しずつ何かが聞こえてきた。
なんだろうと思ったら、まっすーの歌声だった。
恋を知らない君へ。今日披露する曲。
俺はまっすーの歌声に聞き入っていた。
俺とはまた違う、柔らかくて包み込むような声。特にこの曲は、今にも泣き出してしまいそう。感情を込めて歌っているのが分かる。俺はまっすーのこの歌い方が大好きだ。
「あ、手越。どうしたの？」
俺に気づいてまっすーが歌うのをやめた。
「まっすーいなかったから。なんでこんなところで歌ってるの？」
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作者名：おもち | 作成日時：2020年3月7日 16時
