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「A」

 二十歳になったAは、相変わらず声が小さくて、華奢だった。
 こんなの、好きになったってしょうがないよな。
 こんな、女みたいな男がいたら。

「……ジョンハンくん?」

 Aの口からこぼれた自分の名前に、胸が高鳴る。
 名前を呼ばれただけで、喜びが体を満たしていく。

 Aの腕を掴んで、居酒屋を離れた。

「ど、どうしたの? 二次会行くって――」
「二次会なんか行かなくていいでしょ」

 人影が少なくなってきた頃、立ち止まって向き合う。
 ああ、酒で火照った頬が赤くて、唇もほんのり色付いて、ほんとに女みたい。

 俺はAの腕を引いて、その唇に口付けた。

 一瞬か、あるいは数秒。
 その後、ドンと胸を押されて唇が離れる。
 名残惜しくてその唇を見つめていると、顔を真っ赤にしたAが俺を見上げた。

「な、なに考えてるの……!?」
「……別にいいじゃん。お前もゲイでしょ」

 男が好きなら、俺を好きになればいいじゃん。
 開き直って、そんなことを思う。
 腕を掴んでもう一度キスしようとすると、Aが顔をそらして叫んだ。

「私、女だよ」
「……は?」
「女だけど、……男になりたいの。女の子が好きなの」

 わけがわからなかった。
 思考が止まって、簡単に手を振り解かれる。

「ごめん」

 俺が高校時代散々使ってきた言葉を、Aが言った。
 そうして横を通り過ぎようとするので、ハッとしてまた腕を掴んで振り返らせる。

「女ならっ、……問題ないでしょ」
「だから、私は女の子が好きなんだってば」

 Aは泣いていた。
 赤みのさす頬にぼろぼろ涙がこぼれ落ちていく。
 それがもったいなくて、両手で頬を包んで涙を拭うと、Aが顔を逸らして逃げる。

「……触らないでよ」
「ずっと好きだった」

 俺の言葉にAが目を丸くしてこちらを見る。

 そっか、女なんだ。

 今まで胸を渦巻いていた暗雲が晴れたようにほっとして、急に目の前のAが愛おしくなる。
 女なら……。

 俺はAにもう一度キスをして、華奢な体を抱きしめた。

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んー(プロフ) - 和泉さん» わー!もったいないお言葉ありがとうございます!わたしも好きです!笑 (2021年6月23日 10時) (レス) id: d739c5af4f (このIDを非表示/違反報告)
和泉(プロフ) - んーさん…天才ですか…?好きです…(語彙力低下) (2021年6月23日 1時) (レス) id: 8dc69dfd49 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:んー | 作成日時:2021年6月22日 16時

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