すきなひと (ページ11)

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約束の時間の少し前に待ち合わせ場所に着いたけど、待てど暮らせどAさんは現れない。
何か急用でも出来たのかと電話をすると、焦った様子で電話に出てくれた。

入ったところと違うところから出てしまったとか
泣きそうな顔で立っている姿とか
俺を見て、安心したようにふんわり笑顔になった事とか

こんな事を言っちゃ悪いけど、何でもそつなくこなす登坂さんとはイメージが違いすぎる。
本当に彼女なんだろうかと未だに不思議に思う。

キャップを受け取って、思わずAさんを見つめてしまった。

目の前で、少し困ったように笑うAさんに、俺は思わず言ってしまった。

『すみません。登坂さんのイメージとAさんが…』

すると、Aさんは怒るどころか、大きく頷いていた。

『私もそう思います。』

『登坂さんとは長いんですか？』

『そうですね。広臣くんとは、デビューする前から付き合ってるので…えっと』

指を折って数える姿が可愛らしくて、俺はまたさっきと違う気持ちで見つめていた。

聞けば、登坂さんがデビューする前からの付き合いらしい。
ということは？
もう10年近くなる。
俺は素直に感心した。

『へぇー、すげー(笑)』

すると、Aさんは嬉しそうに笑って、登坂さんとの出会いを教えてくれた。

その話を聞いて、引っかかる事があった。

Aさんの様子では、俺が引っかかった事柄に全く気付いている様子はなかった。