落花流水の情【放浪者】

diary.28 ページ30

Aside


ともあれ、日も落ちて大分経っているからそろそろ帰らなければ


私は机の上に広げた教科書を片付けながら未だ横で赤面している放浪者に声をかけた


『ね、途中まで一緒に帰ろ？』


放浪者「は？なんでそんな面倒な……っておい」


そんな答えが返ってくるのはお見通しだから


私はおもむろに彼の袖を引いて教令院から外へと出た


『うわ〜！スメールから見る星も綺麗だねぇ！』


辺りはもうすっかり夜だ


深い藍色をした空には白く輝く小さな星たちが散りばめられている


放浪者「……はぁ、どこから見たって変わらないだろ」


『そんなことないよ、多分』


うん、多分ね


教令院の入り口は高台にあるから空との距離も近く感じて鳴神神社から見る空と似ている気がした


ここには私と放浪者の二人しかいないから今なら色んなことを話すチャンスかもしれないと思った


『ねぇ放浪者、私さっき変なこと言ったかな？』


この質問も大分変かも、と口に出してから気づく


思った通り私の言葉に振り向いた放浪者は顔を顰める


放浪者「うん？そんな当たり前のことを聞く？」


素っ気ない返しに思わず苦笑いする


でも…、なんだか今なら話せるというか、話したいというか


スメールに来て初めて出会ったともだち


いや、友人と呼んでいいのか分からないけど、少なくとも今の私にとっては一番関わりのある人物


それに彼は周りのことはどうでもいいみたいに振る舞っているから話しやすそうというか


『私、稲妻の歴史…というか、自分について調べる為に教令院に来たんだけどね』


そう、私の中にある物語


これがなんなのか知りたくて


夢に出てくる彼にそっくりな放浪者に聞いてほしくて


『どの本や教科書を見ても全然分かりそうにないんだ』


放浪者「なら諦めて帰ればいいじゃないか」


彼の無関心な態度は変わらない


だからこそ、今夜だけの私の夢物語だと思って打ち明けよう


人形と桜の木の話をーーーーー

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