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「ふぅ…」

私、渡辺心は一息ついて、部屋に入る。

誰も入ってこないようにドアに背を向けて体重をかけた。

「もう、笑顔じゃなくていいんだ。」

そういうと心が少し軽くなる気がした。

私は、名前とは真逆に育ってしまった。

名前の由来は「心が温かく、感情豊かで明るい子に育ちますように。」

人から見ればあってるかもしれない。

私にぴったりだって口をそろえて言うだろう。

だって、そういうように仮面作ってんだもん。

「お母さんのためのウソ。だから。」

仮面をかぶっている人なんていっぱいいると思う。

仮面ばっかだと思う。

でも、こんな世界でも仮面なしで生きていた、心もいる、でもお母さんのために私は仮面を作った。

「心?ご飯にするけど。お父さんは今日も遅いって〜」

「わかった。お母さん。」

こういう時も知らず知らずのうちに笑顔が作られる。

仮面の時の表情は自分ではよくわからない。

だからこそ、分厚く作る。

誰かわからないぐらいの厚化粧と同じだ。

薄い色でも重ねれば濃くなる。

濃くして濃くして、そうしていくうちにお母さんへの、世間への顔ができる。

食卓に着くと、やっぱり、少し悲しい。

そして、線香の煙と切ないにおいが和室から少し漏れている。

「心、明日にはお父さんとご飯食べれるといいわねぇ。」

「うん、」

お父さんは、5年前事故にあって亡くなった。

ちょっと遠出のお仕事を終えた後、私たちのいる家に帰ってこようとして乗ったバスが、がけから転落した。

連絡を受けたときにはもうお父さんの命がついえたことは確認されていた。

でも、お母さんはお父さんに会えると信じて病院へ行った。

そこから一週間ぐらい、葬儀が終わったあと私は親せきの家に預けられていた。

そのあと、お母さんに会うと親せきの人はみんな

「ごめんね、心ちゃん。お母さんと幸せになるんだよ。」

そう言って涙を流した。

私とお母さんの二人の生活が始まって、お母さんはお父さんがいると帰ってくるといつでも言っていた。

それが怖かったけど、いないと言ったら怒られた。

だから、お母さんと私の幸せを守るためのウソをついた。

それが始まりだった。

「ご馳走様。おいしかったよ。」

そう言って私は和室に入った、

「お父さん、お母さんを元に戻してよ、本当に戻ってきて、ねぇ。」

気づいたら涙が流れていた。

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作者名:こんわた | 作成日時:2023年8月24日 18時

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