112話 ページ10
「――はあ、これから、ですか？」
門番の兵がきょとんとして、翼宿とAを交互に見比べた。妙な時間に妙な組み合わせだと思っているのだろう。A自身、まだどこか現実じゃないような気持ちである。
「せや。やっぱまずいか？」
「さあ……まぁ、翼宿様と一緒であれば……いや、どうなんでしょう？」
A一人ならともかく、「宮殿の外に出してはいけない」と言いつけられているわけではなさそうだ。そもそも彼らは単純な出入りの管理や、侵入者の排除を主な役割としている。星宿の命がない限り、止める権限はない。
「あー。ええよ、何か言われたら俺が責任取るさかいに。ほな、ご苦労さん！」
まだ何か躊躇うような素振りの兵に焦れて、翼宿が城門をさっさと抜けた。気になってAが一度振り向いたのだがその後は特に呼び止める風ではなく、仕方がないとでも言いたげに肩を竦めて苦笑いしていた。
「翼宿、何処まで行くの？」
そういえば、さっきの門番にさえ行き先を告げずに出てきてしまった。とにかく翼宿は、Aが宮殿から離れる事を優先したのだ。明らかに苛立っていた彼もまた、早々にあの場から離れて頭を冷やしたかったのだとAは思う。
「今日買い物行った店あるやろ。そこのすぐ近くや。馴染みの店でな――、」
さすがの中心街も、夜は人通りがめっきりと減る。勿論外灯などあるわけもないので、ぽつぽつとぶら下げられている提灯の明かりが二人の足元を頼りなく照らしていた。
「おう、ここやここ」
翼宿に促され、何やら騒がしい建物の中へ入っていく。雑然とした店内は満員御礼といった感じだが、見知った顔はない。
「俺らは毎度上を貸し切りや。商売の邪魔になるからな」
店主らしきえびす顔の男と手で無言の挨拶を交わし、店内奥の階段を上る。
二階が近付くにつれ、階下の喧騒など比べ物にならないのでは？というくらいにうるさくなってきた。
「おーい攻児。おるかー？」
いるもなにも、彼の笑い声もしっかり洩れ聞こえているけれど……Aはそう思いつつ、扉を開けた翼宿に続いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
