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136話 ページ34
その時だった。柳宿が何かを考え込むように眉を寄せ、理由を尋ねる前に口を開く。
「ねえ。翼宿は？」
「は……、そういえば翼宿さんが出てきていませんね。寝てるんでしょうか？」
「もしかしてあいつと一緒なんじゃない？そういえばあたしが寝る前に、一回二人で来たのよ」
「それはどのくらい前の話なのだ？」
掴みかかりそうな勢いで尋ねると、うーんと小さく唸ってから、少し戸惑い気味にこう告げる。
「ちょっとわかんないけど……Aが泣いてて、翼宿が慌ててて……だから、どっちもいないんなら一緒かと思ったんだけど」
"Aが泣いていた"。
井宿には、その言葉だけで十分だった。きっと例の騒動の後で、二人一緒に何処かへ行ったに違いない。
ともすれば、かなり時間が経っている。
「嫌な予感がするのだ……」
「えぇ？考えすぎじゃなぁい？」
また大あくびをして、柳宿が眉を寄せた。
「いや……」
――外は、雨が降っている。
「探しに……」
そう言って駆け出そうとした膝が折れて、思いきり床に叩きつけられる。苦悶の表情を浮かべた井宿のそばに、三人が慌ててしゃがみ込んだ。
「無茶を申すな井宿、まだ病み上がりとも言えん状態だぞ」
「しかし、自分が行かなければ」
「死んだら元も子もないわよ、バカっ」
気付くのが遅かった。何もかもだ。
そんな井宿を嘲笑うかのように、雨足はどんどん激しくなる。
弾ける雨粒が霧のように煙って、すぐ先の緑さえろくに見えなくなってきた。
「……A」
このまま何処か遠くに連れ去られてしまうような、そんな気がした。
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