127話 ページ25
二の句が継げなかった。
嘘でも「当たり前でしょ！」とたった一言、言うだけで終わったのに。
代わりに、ぼろぼろと涙が溢れていた。涙腺が壊れたかと思ってしまうほどに。
「……ほらな、言わんこっちゃない」
腹の底からあきれ返ったような声が聞こえてきた。拭くものがなかったので、着ていた制服の袖で何度も目の下を拭う。
「たはは……何泣いてんだろ。おっかし……本当にやだね、女はすぐに泣くから、って」
せめてもの強がりで翼宿の口癖を借りながら自嘲していると、隣で椅子が軋む。
そして次の瞬間には、不器用な抱擁の中に居た。
「た……っ！？」
「泣きっ面があんまり不細工やから、見られたくないか思ってんけど」
「……ぶさ、」
「冗談や。泣きたきゃ、枯れるまで泣いとけ」
今だけ。……今だけは、この優しさに甘えても良いだろうか？
久しぶりに感じる人の体温があたたかくて、ついつい、本音を全部ぶちまけたくなる。
「っ……私だけを見て欲しいとか、そんなことを言ったら……井宿が困るから……だから、もう……翼宿の馬鹿！あーっ！翼宿のくせに、翼宿のくせに優しいこと言うから、我慢出来なく……っ、馬鹿！」
「うわっ。もちっと可愛く泣けんのんか？まあ、ええけど……。おー、よしよし。馬鹿が慰めたるわ」
側面から抱き締めるような形だったので、左肩を大きな二つの手のひらが包んでいた。あやすようにとんとん叩く動きは、なんだか不規則でちょっと可笑しい。
しかし、まあ……はじめこそその腕を借りて泣きはらしたものの、じわじわと罪悪感が芽生えてくる。これ以上はやはり、井宿に悪い気がした。勿論、翼宿にも。
「……ごめんね。もう平気、ありがと翼宿。あの件に関しては、帰ったらちゃんと井宿に聞いて話し合ってみるから」
そう言って顔を上げれば、翼宿はすぐに身を引く……と、思った。
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