126話 ページ24
「……で。許嫁と同じ名前やから……なんやて？んー？」
前置き通りに憶測も交えつつ一通り説明はしてみたが、少し混乱したように翼宿は頭を垂れて唸っている。彼にはどうやら理解しかねる話だったらしい。
「考えてもみてよ。ただ別れたわけじゃなくて、あの二人にはとんでもなく複雑な事情があった訳だよ。別人だって頭ではわかってても、同じ名前の娘が迫ってきたら少しくらい動揺するんじゃない？もしかしたら、どこか似てるところがあるのかもしれないし」
「……わからん。とりあえず、俺ならああはせん」
「う。まぁ人それぞれ……なのかもね、」
あまりにもきっぱりと返されて、Aはそれ以上言えず苦笑を洩らす。
「せやかて大事なんは今やろ？今付き合うとる女の気持ちを優先するべきやん。自分の過去なんかよりも」
「なんか翼宿、変わったね」
「失礼な。こんくらいは当たり前やろ。俺かて男やで」
何故か胸を張りながら、翼宿は軽く抗議する。
「や……うん。まぁね」
――先程から翼宿の調子に飲まれっぱなしである。わりと真剣な口ぶりなので、Aもそうならざるをえない。
そして言葉の端々に「全面的に井宿が悪い」とでも言いたげな雰囲気が感じられた。
はあ、と無意識にAの口からため息が洩れる。
「でも仕方ないんだよ。私も『無理に突き放さなくていい』って言っちゃったんだしさ。井宿は優しいから」
「それ、こないだも聞いたわー」
お腹いっぱい、げんなり、ごちそうさま。そんな表情で翼宿はAを見ていた。
「ったく。……まぁ俺はそない優しゅうないし、確かに目の前の事しか見えへんよ。せやけどなぁ、A」
僅かに先を躊躇ったような短い沈黙の後、前傾気味に翼宿はこう続けた。
「それ、ほんまにお前の本音なん？」
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