124話 ページ22
木製の扉が小さく軋む音で、Aは目を覚ました。真っ暗なせいで、まだ視界はほとんどゼロだったが――そこにいるのが翼宿であるのは、雰囲気でなんとなく分かっていた。
「……翼宿?だよね?」
額に手を当てて、問い掛けてみる。
「おう。起こしてしもたか?すまんな」
窓からの外光に、翼宿の影が見えた。何処からともなく小さな椅子を引っ張ってきて、寝台の脇に座る。
目が慣れていないせいで、表情はまだ読めない。
「ごめん……、もしかして私」
「見事な潰れっぷりやったで?焦ったわ、ったく。ここまで運ぶの苦労したんやでぇ」
「……ごめん。ここ、何処?」
「冗談やて。――まだ店ん中や。従業員用の仮眠室やし、寝心地は良くないやろうけど」
確かに宮殿の部屋に備え付けられた寝台に比べれば格段に劣るが、それなりに大きいし別に文句を言うほどではない。左右に寝返りをうったって平気だ。
「翼宿、ごめんね。ここんとこ、いろいろおかしなことばっかり」
「お前が悪いんとちゃうやろ?さっきからそない謝んなや」
「そうかな。私が戻ってきちゃったのがいけなかったような気もする」
「いやいや。それは朱雀の都合やん」
この辺りで目が慣れてきて、ようやく眉尻を下げた翼宿の顔が見え始める。彼は心から心配してくれているのだ。
Aはゆっくりと半身を起こして、前屈みに座った。
「起きて平気か?」
「平気……ごめん、ありがと」
「まーた謝りよる。今回の事は、井宿が全部あかんねんて!あの女が調子こいたのも……お前を、好きでもない酒に逃げなあかんほど思い詰めたんも」
「……。彼女の件については、少し仕方がない気もするんだよね」
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