122話 ページ20
「幻狼」
踏み出した暗い廊下の向こうから、異様なまでに陰気な声が聞こえてきた。翼宿が思わず身を竦めると、声の主はゆっくりと板張りを軋ませてやってくる。
「何してん」
「攻児……か。びっくりさすな、それは俺の台詞やで?」
強気な態度で返すと、攻児はじろじろ翼宿を見てきた。右手に謎の瓶を握りしめて、何故か全身がびっしょりと濡れている。正直言って不審者だし、違和感しかない。
「気持ち悪いな……酒でも浴びたんか?」
「ちゃう。外行ったら雨が降ってきよった」
「は……さっきまで、あんなに晴れとったやん!むっちゃ星見えとったんやで」
「そない言うたかて、俺は神様やないで。天気が急に変わる理由なんて知らん」
滴り落ちる髪の水気を鬱陶しげに振り払うと、攻児は一歩踏み出して続ける。
「で?お前は何処行く気や」
「……戻って飲み直そか、て、思っただけや。Aも眠っとるし」
「何言うてんねん、阿呆」
いつもの調子より低く、まるで喧嘩でも売るようにして例の瓶を突き出した。だからそれはなんなんだと、あからさまに顔をしかめる。
「酒ならこれ飲んどけ。やる」
「分かった、分かった。戻ってからな」
「今や」
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