夢でもあなたを想う 3【ふしぎ遊戯】 (ページ19)

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121話ページ19

そうこぼして早めに踵を返そうとした攻児の足が、ぴたりと止まった。

進行方向に、誰かが立っている。

道はとても狭く、人ひとり通るのがやっとだ。というか、気配すら感じなかったが、いつからそこにいたのだろう。

攻児が歩き始めても、人影が動く気配はない。ただじっと不気味に、うつむき加減で立っているだけだ。

「あのう。すんまへん。ちと通してもらえます？」

勿論はなから喧嘩する気はないので、へらへらと下手に出てみる。

「……"翼宿"を知っているな？」

「へ？幻狼？ ……あんた、誰や――」

眉を寄せて警戒心をあらわにする、寸前。降り出した大きな雨粒が体を濡らして、思わず怯んでしまった。

「……なっ、なんや……！？」

がら空きの腹部に、なにか固いものが当たる。

視界が悪く、すぐ近くにあるはずの男の顔がよく見えない。なにか知らない香りだけがはっきりと鼻をついた。

「君の友達に、それでよろしく伝えておいてくれればいい」

男の姿がかき消え、咳き込んだ攻児はどうにか倒れず建物の壁にもたれ掛かった。殴られたというほどでもないのに、頭がぼんやりするのはどうしてだろう。

そして、腹を押さえる手には小さな瓶が握られている。まるで手のひらに貼り付くみたいにだ。

なんなんだ、一体……。

「最高の機会をくれた君に、礼を言おう」

どこからともなく聞こえたその低い言葉の意味を、攻児が理解する事はなかった。