120話 ページ18
あいつが女の事をあれほど気にかけるなんて、今まで初めての事だ。興味がないどころか嫌悪するような言動すらあった男は、"彼女"に出会ってから随分と変わったように思う。
攻児は騒がしい一階の飲み客連中の隙間を抜けて、店の外に出た。かと思えば建物の間にある狭い路地に入り込み、滅多に吸わない煙草に火をつける。
今指に挟んでいるこれだって、自分の物ではない。むさ苦しい広間の空気ばかり吸っていたせいか、なんとなく気晴らしがしたくなって下っ端から一本頂戴してきたのだ。
ぷかりと浮かんだ紫煙が空で複雑に渦巻く。
「ちーっと、からかっただけやけど。あれは……」
この前もそうだった。山を訪れた井宿に、意地の悪い事を言ってみたり。
今日だって、なにも本気で雪を寝取ってしまえと言ったわけではなかった。
その下品なおふざけが通用しなかったあたりを考えると、やはり彼の中には彼女へ七星士意識以上のものがあると思う。
大事な親友は叶わない恋をしていて、しかも本人はそれに気付かずにいる。いや、気付かないようにしているだけかもしれない。その状況が彼をまた苦しめる。
そう思うと複雑だった。実際自分は、誰の味方にもなれない気がして。
まあ、なんにしても案外真面目な男だ。俺がアイツやったら本能に従って奪っとるけどな、なんて。
「……っ、」
さして美味くもない安物紙巻きの煙を、再び吐き出す。同時に、ひゅうと頬を湿った風が撫でた。反射的に空を見上げると、さっきまでよく晴れていたはずの空にみるみる灰色の雲が立ち込めてきているではないか。
「ん、あかんな。こら一雨くる……」
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