104話 ページ2
話し終わるなり下っ端を叱りつけ、ほなな お二人さん、と攻児は去っていく。いつの間にか品物はAが受け取り済みで、デレデレしたまま去っていく彼らに向かって空いた手を振り返していた。
「顔は怖いけどいい人たちだよね、山賊の皆さんって」
「女にゃ弱いねん、あんな笑顔見たことあれへん。さーて、宮殿戻るかぁ」
酒盛りのお知らせには心ひかれるものがあったが、今はそんな事をしている場合ではないだろうなと、翼宿は思っていた。だから攻児には、まるで気乗りしないような態度をとったのだ。
Aや張宿は酒に滅法弱いし、井宿は風邪で論外。柳宿は山賊との酒盛りなど二度と参加するまい。星宿は仮に行きたがっても絶対駄目だ。
ならば一人で気晴らししにふらっと出て行けばいいのだが、それはそれで気が引ける。
「あー、翼宿見て見て。あの雲おいしそーじゃない？」
Aの暢気な声に俯いていた顔を持ち上げると、空にぽっかりと浮かんだ雲は見えたのだが……なんの形かはさっぱりだ。
というか、さっき朝食を食べたばかりではないのか――。
「わたあめみたい」
「……？ ただの薄雲にしか思えんけどなあ。まだ腹減っとんかお前」
小柄なAの歩幅は、当然狭い。いつしか彼女と歩くときはせっかちな翼宿も速度を緩めて歩くようになっていたのだが、今日はいつにも増してその歩みが遅い事に気が付いた。
意識的なのかそうでないのか、横目で見てみてもAの表情に大した変化はない。それでも、出来るだけ外での時間を稼いでいるように思えたのだ。
「なあA」
「んー？」
「井宿、見舞ったか？」
「ううん」
「……ほーか」
目を合わせない短い返事は、それ以上聞いてほしくないという意思の表れだろうか。
無意味に荷物を抱え直して、翼宿はそれからしばらく、Aが唄う鼻唄に耳を傾けていた。
恐らく異世界の、少し寂しげな鼻唄を。
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