幼き頃の記憶 その�� ページ17
｢ありがとう。…それで結局誰だ？｣
｢え、あ、ごめんなさい！私のことはちょっと黙っててくれませんか…？｣
男の子は少し顔をしかめたが、｢まぁ、このこともあるしな…｣とハンカチの方をちらりと見てうなずいた。
｢ここは、王宮なんだが、どうやって入ったんだ？｣
｢あ…それは私にもよくわからなくって。なんだか無意識のうちに…。あなたは、ここの騎士団なんですか？訓練服っぽいんですけど。｣
｢ここの騎士団の訓練兵だ。｣
そう言うと男の子は目を輝かせた。とっても、希望に満ち溢れた顔だ。
｢俺は、昔騎士団に助けてもらったことがあって、そっからぜってぇ騎士団に入ってここの騎士団長になるって決めてたから。｣
生き生きと夢を語る男の子の横顔を見て、すごいなぁと感心すると同時に家出をしている自分はすっごくちっぽけな存在なんだと思えてくる。
｢すごいですね、大きな夢を持ってて。憧れます。｣
｢何かあったのか？｣
｢え？｣
心を読まれたのかと思い、ドキリと心臓が跳ねる。
｢なんだか、悲しそうな顔してると思って。｣
｢…私、家出してきたんです。家族が私のことを何もない、役立たずっていうのが耐えられなくって。｣
私は初対面の人に何を言っているんだ。きっと引かれただろう。なんだこいつって思われただろう。
そして今、私の顔はきっと男の子とは反対の絶望の顔をしているだろう。
｢あはっ、ほんと私ごめんなさい。つい、暗い話しちゃて…｣
｢俺は心の綺麗な人だなって思う。｣
｢え、あ、どういうことですか…？｣
｢だから、何もないわけではない。｣
私が首をかしげると、男の子は｢あんたのことだ｣と言って言葉を続ける。
｢それに、傷をささっと手当てできるっていうのは役に立っていると俺は思う。ありがとう。｣
今考えると、この言葉の数々はきっと見知らぬ人を励ますために、パッと思いついたのを並べただけだろう。でも、その言葉は私にその時はまだ知らぬ温かさを教えてくれた。
｢俺はそろそろ戻らないと、じゃあな。｣
男の子はそういうと、どこかに行ってしまった。
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作者名：茉凛 | 作成日時：2022年8月20日 21時
