アップ・リット心地よい読後感を【ARS】 (ページ5)

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時間は遡ること２日前。
店仕舞いの後、雑務を終えた大野智は
鍵を締めたのを確認して歩き始めた。

アンタイトルの前は一方通行の
道路を隔てて公園が広がっている。
駅への抜け道として使用する車が
多いこともあり幅広い歩行者用通路も
備えられていた。

昼間とはうって変わり冷え込む夜で
智はブルゾンのポケットに手を突っ込んだ。

暫く歩いていると、公園の出入口にある
円柱形の石に座り携帯電話を弄る女子高生
の姿を確認した。

通りは明るいがそこは緑が鬱蒼として
暗がりになり待ち合わせには不向きに
思われた。
女子高生と分かったのは彼女が操作する
画面からの光によるものだった。
ブレザーにスカート、その下には赤い
ジャージを身に付けている。

前を通りすぎたが何故か気になり
智は足を止めて振り返った。

「この辺、人通りもないから待ち合わせに
危ねぇぞ」
と智から声をかけると、彼女は一度顔をあ
げて一瞥するも画面に視線を戻した。

「一人で時間潰してんの」
と一言だけ発した。

「親が心配するんじゃ…」
「…居ない」
「へ？」
「だから、居ないの！」

彼女が苛立つように語気を強めた。

「施設を抜け出してきたのか？」
「そうじゃないけど…」

食い下がり智は更に続ける。

「どんな理由があるか知らねぇけど、
ここは危ない。今は色々物騒だからな
喧嘩なら早く謝った方がいい…」
「いいから、放っておいてよ！」

智が言い終わる前に被せるように彼女が
大声をあげた。

「なっ！」
驚いて声に詰まっている智の横を
すり抜け、彼女は走り去っていった。

ポカンとして立ち尽くしていたが、
ふと彼女がいた石の下に何かが落ちている
のに気づいて拾い上げた。

「あいつの…」
彼女の写真付きの学生証だった。

学生証を手にして駅への通りまで走って
追いかけてみたが、既に彼女の姿は雑踏に
消えていたのだった。