第64話 星の子 ページ37
それは、陽花戸中との特訓の合間にとった休憩時間での出来事だった。
「やっぱり、そこはこうするべきだよ。その方がみんなの負担も減るし、何より円堂くんが……」
「うーん。でも、ここはこうだからな……」
特訓の采配を相談させてほしいという円堂くんからのお願いを受け、私たちはグラウンドの隅で紙を広げながら二人で細々と小さな作戦会議を行っていた。
とはいえ、作戦会議なんて大層な名前を命名してみたものの、実際には椅子や机なんて都合のいいものは勿論持ち合わせていなかったから、地べたに座りながら話し合う超簡易的な話し合いだ。
采配の相談なら鬼道さんや春奈ちゃんのような、頭のキレるインテリジェンスに富んだ人たちにした方が断然効率的に進められると思うけど、円堂くんは私なんかで本当によかったのかな。いや、誰かに必要とされるのは嬉しいことだけどさ。
「──守」
私と円堂くんの二人が揃いも揃って広げた紙と睨めっこをしていると、不意に空の方から聞き覚えのない声が私たちの耳に飛び込んできた。
私たちは思わず顔を上げる。その先にいたのは、サラサラと風に靡く櫛通りの良さそうな赤い髪が印象的な、どことなく既視感を感じる男の子だった。
鋭い目付きとは裏腹に、その表情はどこか儚げで、なんだか物凄くサマになるなと私は素直にそう感じた。……なんだろう、いい所のお坊ちゃん、もしくはどこかの国の王子様って感じだ。貴公子でもいいかもしれない。
「うん? ……おおっ、ヒロト! どうしてここにいるんだ?」
円堂くんは嬉しそうに彼の名前らしきものを口にすると、純真無垢な小さな子供のように頰をほころばせながらすっくと地べたから腰を上げた。
……彼の目的は円堂くんらしいけど、だからと言って座ったままじゃ流石にヒロトくん? に失礼だよね。私もそれに続くように、ズボンについた砂を手で払いながら地面から立ち上がる。
初めて見る顔に興味をそそられて、気がつけば私は無意識のうちにじっと赤い髪の彼のことを見つめていた。そして、次第にヒロトと呼ばれたその子とパチリと目が合う。
私は思わずたじろいだ。単なる私の勘違いかもしれないけど、彼がこちらににこりと笑いかけたような気がしたからだ。
「……?」
私が覚えていないだけで、もしかしたら私は彼とどこかで会ったことがあるのかもしれない。私は一瞬そう考えたけど、どうやらそういうわけでもなかったらしく、ヒロトくん(仮)はすぐに視線を円堂くんに移すと「ごめん。少しだけ、守と二人にしてくれないかな」と神妙な顔つきでそう言い放った。
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こめこ(プロフ) - アインツバルさん» コメントありがとうございます。私にはもったいなすぎるお言葉です……! 完全なる長編なので読むには少し骨が折れるかもしれませんが、ぜひ楽しんでいただけると嬉しいです( ´∀`) (2019年4月7日 18時) (レス) id: 67fc292324 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - あ、こめこ様の作品発見! 神作品の予感がするぜぇ...!! (2019年4月7日 11時) (レス) id: db0b681609 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめこ | 作成日時:2019年3月7日 18時