その１２６：カムバック言語変換能力 ページ34
☆
稲森と灰崎の足取りを辿り宿舎の外に出てみれば、そこには敷地の外へと続く長い階段を下りる一星の姿があった。見慣れない私服に身を包み、大きな荷物を背負い込んでいるその風貌は、いかにも"今から家に帰ります"といった感じだ。
「どこ行くんだ、一星！」
「まさか、落とし前もつけずに消えるつもりじゃないだろうな」
そんな彼を引き留めるように、稲森と灰崎は各々の言葉で声をかける。言い方は違えど、二人とも言いたいことは同じだった。
一星はぴくりと肩を揺らしてから、そっとこちらを振り向く。その表情は清々しいようで、どこか諦観がちらついているようにも見えた。
「俺は……長い夢を見ていたみたいだ。でも、自分がやってきたことを忘れたわけじゃない。だから、俺は君たちの前から消えて──」
「──そ、それはちょっと違うんじゃないかな！？」
思考を仲介するよりも先に、ほたるの口から溢れ出た言葉。一拍置いた後にやっとそれを自覚したほたるは、自分で言ったはずの言葉に思わず「あっ」と動揺の声を上げる。
不意に出たほたるの大声に、階段の下の方から茫然とこちらを見上げる一星。言葉の続きなんて一つも考えていなくて、ほたるはやむを得ず言葉を詰まらせた。それでも何か喋らなければならないと、必死に頭の中から語彙の引き出しを探っていく。
「え、えっと。その、だから……えーっと」
「……分かってるさ。君は一星充に興味があるから、俺に居なくなられるのは都合が悪いってことぐらい。でも、残念ながら、俺はもう君の知る"一星くん"じゃない。俺を引き留めたって、君の望むものはもう何も」
「ち、違う！ 私が言いたいのは、そういうことじゃなくて」
自嘲するような一星の言葉を、ほたるはすぐに否定した。
──あれ。私、今、なんでこんなに焦ってるんだろう。目標を達成できたか判断できなくなるのは困るから、一星くんの言う通りだから、まだ行かないでって。素直にそう言えばいいのに。
ただそれだけのことなのに、どうして私はこんなにも言葉に迷っているの？
「わ、私は」
「──ほたるさんの言う通り、それは少し都合が良すぎるんじゃないかな。一星くん」
何かを考える余裕もなく、やっとの思いで紡いだ言葉。けれど、それはどこからともなく現れた第三者の声によって呆気なく遮られてしまった。
その１２７：え、食堂は？→←その１２５：何の前触れもなく消えるのはやめてください
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coopee - 初めてコメントさせていただきます！久々にイナイレの占ツクをあさっていたら、まさかこんなにも素敵な作品に出会えるとは思ってもいませんでした。主さんのペースで、完結まで頑張ってください！ (2021年2月18日 17時) (
レス) id: 2eec394d2f (このIDを非表示/違反報告)
鮭の神様(元 レオ)(プロフ) - わぁぁぁぁ！！！続きが更新されてる…！！！楽しみにしてました！！！更新ありがとうございます！！！変な時間に申し訳ございません。これからも無理せず頑張ってください！ (2021年1月25日 2時) (レス) id: 86c31a4b24 (このIDを非表示/違反報告)
こめこ(プロフ) - 奏さん» 大変長らくお待たせしました…！！変なところで切ってしまってごめんなさい；超マイペースではありますが、これからも完結目指してなんとか頑張っていこうと思います…！コメントありがとうございました！ (2021年1月24日 22時) (レス) id: 2935309ddd (このIDを非表示/違反報告)
こめこ(プロフ) - 華兎くんさん» ご心配をおかけしました…！長い間お待たせしてしまい申し訳ないです。これからも楽しんでいただけるよう頑張ります、コメントありがとうございました！ (2021年1月24日 22時) (レス) id: 2935309ddd (このIDを非表示/違反報告)
こめこ(プロフ) - ゆめのわたしさん» コメントありがとうございます。大変長らくお待たせいたしました…！完結までお届けできるよう、これからも頑張っていきます…！！ (2021年1月24日 22時) (レス) id: 2935309ddd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こめこ | 作成日時：2020年5月1日 21時
