TAKE１６ 交差する ページ21
ヒグラシの声が聞こえる。
にっかり青江は本丸の一番西にある縁側で、立ち止まっている審神者を見つけた。
審神者は縁側から見ることが出来る繁みを、ぼんやりと眺めていた。しかしそこには何もないように見える。
他の物が見えるのか、審神者は微動だにせずそれを凝視していた。
「君には何が見えているんだい」
そういって笑ったにっかり青江は、審神者と同じ方向を向いた。そして目を細めて、もう一度審神者を見た。
「他の物が見えているんだろう」
審神者は首を振った。
逢魔が時には、この世とあの世が交差するという。あの世の物はこの世のものが見ることは出来ない。ただ、あの世の物が自分たちの世界に来いと誘うときがある。きっと審神者も誘われているのだ。
いつからそこにいたのか、あの世の物は血走った目で審神者から視線を動かすことは無かった。
彼は黒い鉛筆でぐしゃぐしゃに描かれた幼子の落書きのような、もやのような輪郭をしていた。
彼がこの世のものではないことは、どう見ても明らかだ。
見つめ合っているうちに悲し気な蝉の声が、何重にも重なって聞こえてくるように感じた。
審神者の首筋に、汗が流れていった。
面の下の表情は全く分からないが、硬直したまま動いていない。
にっかり青江は何も言わない審神者の手を取り、優しく引っ張った。審神者の体は力なくにっかり青江の方に倒れた。
「部屋に入ろう」
返事は無かったが、にっかり青江は構わず審神者を屋内に引っ張り込んだ。
障子を閉める前、かさりと繁みが動いたので、にっかり青江は振り返った。誰かが、こちらに這入ってこようとしている。
「ああ、君は駄目だよ」
にっかり青江は、名前の通りに笑った。誰かはその場で立ち止まり、また屋内に入ってこようとはしなかった。
夜、本丸中が寝静まった頃。庭に誰かが降り立った。
彼は片手には自分の脇差を持ち、寝間着のままふらりと西側の縁側へと向かって行った。
そこにいたのは夕方に見たような落書きで、来客を見て笑うと、こちらへおいでと手招きした。
しかし、手の中にある脇差を見るなり血走った目を見開き、怯えたように呻き声を漏らした。
生暖かい風が吹き、にっかり青江の長い髪を揺らした。
右眼を隠している前髪が風に揺れ、ほんの一瞬赤い瞳が見えた気がした。
「ごめんね、あの人をあげることは出来ないよ」
素早く刀を引き抜いたにっかり青江は、落書きの胴を一刀両断した。
落書きは何も言わずに消え、夜の闇に溶けていった。
TAKE１７ 本丸定期放送 ※会話文→←TAKE１５ 「割りばしで軽く二時間は遊べる」 下
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いなほん(プロフ) - 最゛高゛で゛す゛……!!!!素敵なにっかりさんをどうもありがとうございました！ (2016年12月4日 17時) (
レス) id: eb5ee429dc (このIDを非表示/違反報告)
新鮮な鉛筆(２B)(プロフ) - 拳銃さん» すみません、御指摘ありがとうございます。次のお話で、書き方を変えてみます…。 (2016年9月16日 21時) (レス) id: 873a9a633f (このIDを非表示/違反報告)
拳銃(プロフ) - もう少し間を開けた方が読みやすくなりますよー。はっきり言ってこれ読みにくいですね。二、三行で良いので間隔取ってくださいね(´-ω-`) (2016年9月15日 23時) (レス) id: d214872701 (このIDを非表示/違反報告)
ルサルカ(プロフ) - 新鮮な鉛筆(２B)さん» ありがとうございました！電車の中なのにニヤケちゃいました！www更新のんびり待ってるのでのんびり頑張ってくださーい！応援してますw (2016年9月9日 19時) (レス) id: 2218d295b6 (このIDを非表示/違反報告)
新鮮な鉛筆(２B)(プロフ) - ルサルカさん» 「待つ」ですか、リクエストありがとうございます！また時間が開いたら書かせていただきますね。 (2016年9月4日 8時) (レス) id: 451b47dddc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：新鮮な鉛筆(２B) | 作成日時：2016年8月10日 13時
