君は知らない 3【H×H】

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「何だか不思議な感じだね。呼吸しないって。」

「わかる。慣れるまでは水の中でも中でも呼吸しそうになるよ。したら、ひどいことになるけど。」

私達は広い深いプールで念を試しながら言う。
昔、練習中にやってしまったときは本当に酷いことになった。
水を一気に肺に入れてしまい、溺れたかのように咳き込んだ。
鼻がツーンとして、咳が止まらず、生理的な涙が溢れ落ちる。
息をしてしまった自分が馬鹿なのだ、アホみたいな怒りのやり場が無く、踞って一人で咳き込む自分に虚しくなった。

彼が呼吸しないか…。
益々人形の様だな、そう思った。
水の中で泳ぐ彼は美しかった。
反射する水の中で艶やかな黒髪が水流に流れてく。
重力が少ないせいもあり、まるで舞っている様に見えた。
白い肌、美しい顔、その様相、全てが合わさり、正に人形だった。
本当に現実でないように思える。
いや、考え方次第ではここは私にとって本当は現実ではないとも言える。
だって私にとってここは紙の上の世界だから。
いくら触れられて、感じて、現実だと思っても、どこかでその意識が付きまとう。
水中にプカプカと浮かびながら思考する。
ああ、本当に現実じゃないのに、今は現実でここにいる自分が分かんなくなる。
どっちが、正しいんだろう。
考えるだけ無駄なのは分かっている、相反しながら同一線上にいるような問題だから。
これ以上思考すると、自分の存在が溶けてしまいそうで考え続けるのを止める。
私はボーッと前の薄暗い人形の舞を見ることだけに集中した。

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