第二章 2-1 マテールの亡霊 ページ9
「何だとコラァ!! もういっぺん言ってみやがれ ああっ!!?」
「おい、やめろ バズ！」
聞き慣れた男の声と怒号が響くちょっとした騒動の中、Aは沈んだ気分を振り切るように淹れたての珈琲をぐっと一気に飲み干した。
時刻は遡る。アレンが無事に教団に入った翌日の早朝、読書をしようと図書館に足を運んだAの元に舞い込んできたのは任務を予兆させる、コムイからの呼び出しだった。
指令室に呼び出されたAは棚から取り出した一冊の本を少し名残惜しげに戻せば、嫌な予感を胸に抱きながらも、幾度と足を運んだその場所へ向かう。
早朝なこともあってか、指令室に向かう廊下は静まり返っているようだ。
遠慮がちに開かれたドアの音にコムイが顔を上げる。どうやら徹夜明けらしい。
Aを視界に映すと「おはよう」と声をかけて、資料や本で埋め尽くされているコムイの机と向かい合い腰掛けるよう促した。
「ああ、ごめんね。早くに呼び出して」
ちらりと日付を確認して此方に向き直る。
「本当はゆっくり休んでもらおうって思ってたんだけどね。ちょっとこっちで手違いがあったからさ」
「前置きはいいよ。要件は？」
Aの急かす様な口振りにコムイは手に持っていた資料を手渡した。それなりの厚さがある資料をざっと流し読みしながら片手間に話す。
「それで――、A君には今回 アレン君達と一緒に任務に行ってほしいんだ」
「任務に？」
「資料はこれ。粗筋は全員が集まってから話すから、そのつもりでね」
「目的は」
「まあ、イノセンスの回収だよ」
「だったら二人もいれば事足りると思いますよ」
「念の為だよ」
現在いるエクソシストで手が空いている者となると、その中で誰が任務に選ばれたのか自ずと答えは見えてくる。
そして、コムイの立場から考えれば必要に人員を割く程の余裕はないだろう。にもかかわらず、ここで三人体制と取るというのだから、″達″と一括りにされた人物が誰か、など容易に想定できるというものだ。
「アレン君はこれが初任務だ。僕としても、二人だけじゃ不安でね」
ほら、初対面がアレだっただろう？ とコムイは続ける。全ての元凶がそれを言う。
「悪いとは思ってるよ。変えるつもりはないけどね」
彼はこの先もずっとこの調子なのだろう。
「コムイ室長」
「君ほどの適任者はいないんだ」
アレン君と顔見知りで、神田ともうまくやっている教団内のエクソシストで且つ、手が空いている人物。ほら、君一人だ。
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