第一章 1-7 ページ8
「今思い出しても嫌になるね」
どこか諦めたように言い放つAを見て、アレンはもしやと頭に過った言葉を口に出すつもりだったのだが、その必要がまるでなくなったのだから苦い顔を浮かべるしかなかった。
一緒にいたのに何で知らないのかと疑問を感じるかもしれないが、アレンにしてみれば、Aはあの日いつの間にやらいなくなっていて、おかしいと思いクロスに聞いたところ「アイツなら今頃本部だろうな」と告げられたまさに後の祭り状態だったのだ。別れの挨拶すらしていなかった。聞かなければ、今の今まで知らされていなかったことだろう。
アレンがエクソシストでありクロスの弟子である以上、こうして数年越しに再会出来る日が来ることは自ずとわかってはいたが、それでもやはり、こうして成長した姿を見れることは素直に嬉しいとさえ思う。
横から漏れる「なんだ、」なんていう呟きに近いそれにAはアレンの顔を見やった。なんとなくホッとしている様に見えるのは気のせいだろうか。
前を歩いているリナリーは静かだ。気を遣ってくれているんだろう。
「僕てっきり、いつもみたいにAが自分で出て行ったとばかり思ってたからな……」
「いつもって……そんなことあった？」
「Aって自分の事言わないじゃないですか」
だから、何も言わないで行っちゃったのかなって。
そう続けたアレンの横顔はクロスの話から一転して寂寥感が薄らと顔を出すものだから、喉まで出かけた浮ついた言葉を呑み込む他なかった。意外にも人並みにある良心が痛んだので今日のところは大人しく口を閉じることにしたのだ。
良い思い出ばかりではないにせよ、情が移るくらいには一緒に過ごしていたし、アレンはまだ子供。それに別れが別れだったのでいなくなったことを寂しがってくれていたのだろう。知らなくていいことまで知ってしまった。
少しの罪悪感と羞恥心でアレンから顔を逸らしたA。心なしか歩くスピードが少し早くなった気がしないでもない。
アレンは不思議そうな顔をするが、あまり気には留めず前方のリナリーの背中を追った。
「このフロアは？」
「ここは兄の」
自然な流れでコムイの下へ足を踏み出した時、Aだけが突然 踵を返した。
「何処行くの？」
「図書室」
リナリーの問いかけに短く返し、返答を待たずそのまま行ってしまう。
「じゃあ、私たちも行こっか」
Aの後姿を見送るとリナリーは気にする様子もなく笑いかけた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 36人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
