第一章 1-6 ページ7
食堂、修錬場、談話室とリナリーを先頭にスムーズな案内は続いた。
きょろきょろと辺りを見回したり慌ててリナリーとAの後を追ったりと、何ともあどけない行動を繰り返すアレンの姿に小さく笑いが込み上げたのは内緒だ。
「他にも療養所や図書室、職員の宿舎もあるから、後で案内するね」
肩を並べて歩いている本人に気づかれないようそれとなく横目で彼を見澄ました。
特徴的な白髪に左目の上に刻まれた逆さのペンタクルがまず目につく。顔にはまだ幼さが感じられた。
――と、そこでAはふと気づく。大きくなったとは思ってたけど……と。
思えばAがクロスの下を離れ此処に入団する以前、最後に見たアレンはいつものようにAを見上げていた。当時 Aは確かにアレンより身長が高かったのだが、今、こうして横を歩くと何ら目線が変わらないことにAは時の流れを感じずにはいられなかった。男子三日会わざれば刮目して見よとはよくいったもんだ、と薄く笑みを浮かべる。
「エクソシストはみんなここから任務に向かうの。だから、本部のことをホームって呼ぶ人もいるわ」
「ホーム...家、ですか」
「出て行ったきりわざと帰って来ない人もいるけど」
リナリーのそれとなく告げた言葉は思いの外 攻撃性が高かった。
うっ、と分かり易く動揺を表に出した後、「師匠です」と答えるアレンの表情は滑稽だ。だがAとてアレンのその反応を他人事として捉えられはしない。その結果何とも言えない空気がクロスの弟子達を包んだが、前を歩いているリナリーは知る由もない。
「クロス元帥は？ あなた達インドにいたんでしょ？」
「それが、三カ月前……」
遠慮がちにアレンの口から明かされる聞き覚えのある、既視感のある話の内容にAは耳を塞ぎたくなった。
「弟子を殴って気絶させて、逃げた……？」
「ええ」
溜め息交じりの返事からはそれまでの苦労が容易に伝わってきた。
いやむしろただの溜め息だったかもしれない。
「あの人の教団嫌いは今に始まった事じゃない。今更どうにかなるようなもんじゃないよ」
「それって、」
「今思い出しても嫌になるね」
どこか諦めたように言い放つAを見て、アレンはもしやと頭に過った言葉を口に出すつもりだったのだが、その必要がまるでなくなったのだから苦い顔を浮かべるしかなかった。
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