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「この薔薇をよく見て欲しいの。何か書いているでしょう？」
「ああ」
何をする気なのだろうか。Aの芝居掛かった声色で、何かこちらへ仕掛けて来ようとしているのは分かるのだが。
「はい、これ」
「…は？」
一瞬で紙吹雪と共に薔薇が消え、Aの手に持たれていたのは薔薇の装飾が施された美しい指輪だった。
一瞬の出来事に愕然とする。何だ今のは。何なんだ。
「驚いた？あれ、少し前に道化に教えてもらったの」
＿＿成功したのは初めてだけれど。
そう言いながらAは俺の手を取り左手の手袋を外すと何の迷いもなく薬指へそれを着けた。彼女は俺が断る可能性は考えなかったのだろうか。
「悪いけれど、貴方が断る可能性なんて考えてないわ。何せ、わたしは貴方がプロポーズしないせいで“十年”も待たされたんだもの」
拗ねた様に頬を膨らませた彼女を見て毎年作っては渡さなかった指輪達がやけに騒がしく戸棚の中で暴れているのを感じた。
「…悪かった」
「悪かったと思うならさっき見たいにキスの一つや二つしてみなさいな」
「そ、れは……」
＿＿出来ない。
そう呟けば深いため息と「馬鹿な男」との言葉が飛んでくる。
「でも、許してあげる」
＿＿だって、わたし貴方がだいすきなんだもの。
そう言ったAは小さく笑って、俺の指に通された薔薇へキスを下ろしていた。
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