story14 ページ22
.
昴さんに促されて席を立つ。
彼は私が帰り支度をする間に、さっとお会計も済ませてくれた。これは夕飯作りを頑張らなければ。
「透さん、ご馳走さまでした」
「またいらしてくださいね」
笑顔の透さんに見送られ、昴さんと夜道を行く。
頬を撫でる風がひどく冷たい。
「今日はまた一段と冷えますね」
「本当に。あ、今日はお鍋にしましょうか」
「いいですね。とても温まりそうだ」
さりげなくからめられた指に笑みを溢して、私は冷蔵庫の中身を思い出しながらとっておきのお鍋にしようと思うのだった。
■□■□■□■□■□
美味しい鍋を平らげ、食事の片付けをしているAの背を眺めて、鞄の中から彼女に渡そうと思って持ってきた物を取り出した。
ジョディいわく、今女性に人気な商品なのだとか。
「お待たせしました。食後のコーヒーです」
「あぁ、ありがとう」
ありがたくコーヒーを受け取り、自分の隣へくるようにと手招きをする。
「?…失礼します…」
「恋人なのになんで失礼なんだ」
彼女の言い方に思わず苦笑を溢しながら言えば、まだ慣れなくて、とAは気恥ずかしそうに笑みを返す。
「A、手を出して」
「?…はい…」
不思議そうに首を傾げるAの手に、俺はさきほど取り出した物…ハンドクリームを乗せて、そのやわらかな肌に丁寧に伸ばしていった。
「しゅ、秀一さん…!」
「こら、逃げるんじゃない」
羞恥からか逃げ腰になるAの手をしっかりと掴んで、細い指の先まで丁寧にクリームを塗っていく。
「…な、なんだか恥ずかしいですし…申し訳ないです…」
頬を染めて小さくなるAに苦笑をこぼす。
何を言っているのか。俺がどれだけこの手に救われているのか、彼女はきっと知らない。
「申し訳ないことなんかないだろう。この手は、いつだって俺を生かしてくれるのだから」
「…生かす…?」
案の定首をかしげるAの手に、優しくクリームを塗り込みながら、大好きなチョコレート色の瞳を覗いた。
「そうだ。…食べることは生きること。お前はいつだって、俺が苦しい時も悲しい時も…この手であたたかい料理を振る舞ってくれた」
「……秀一さん…」
「Aのこの手は、いつだって俺を生かしてくれる」
まるで壊れ物に触れるように、そっとその両手を包み込む。
.
555人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
kaoru(プロフ) - 一気読みしました!ぱぱんださんの赤井さん格好いいし、降谷との絡みが面白すぎる!!更新楽しみにしてます! (2020年7月9日 0時) (レス) id: ecb16dd86f (このIDを非表示/違反報告)
akithin.(プロフ) - 更新楽しみにしてます! (2020年5月23日 14時) (レス) id: 58267e955c (このIDを非表示/違反報告)
壟薇 - とても面白いです!更新再開待ってます! (2019年12月6日 15時) (レス) id: ebdf59309e (このIDを非表示/違反報告)
玄ちゃん(プロフ) - 初めまして(*^^*) 面白そうで最初から全て読みました! 更新が再開されるのを楽しみに待ってます(≧∇≦) (2019年11月2日 18時) (レス) id: b03705665b (このIDを非表示/違反報告)
grenouille(プロフ) - お久しぶりです!なかなかタイミングがなくて、すっかり時間が経ってしまいましたが、やっぱり、ぱぱんださんの作品好きです(^^)また、更新お待ちしてます(o^^o) (2019年8月18日 19時) (レス) id: 390c91a8c5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぱぱんだ | 作成日時:2018年12月2日 16時