story10 ページ18
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「さすがね。人気の家政婦さんなだけあるわ」
「人気だなんて…恐縮です。お口に合えばいいのですが…」
あの裏道での事件から一週間。
何事もなく、私は普段通りに仕事をしていた。
毎日のように秀一さんは姿を見せに来てくれるし、やたらと公安の方々の予約が多いのも零さんの気づかいだろう。
しかも仕事帰りには、決まって誰かどうか現れて送っていってくれるという好待遇ぶり。
何だか申し訳ない気持ちもあるが、何かあってからの方が迷惑になってしまうような気がして。大人しく好意に甘えている。
今日は新規のお客様で、とても優しげな老夫婦だ。
奥様は先程から私の調理を見学しては感心しきりで。
旦那様は寡黙な方なのか、リビングで静かに新聞を読んでいた。
「お若いのにすごいわねぇ。お料理は昔から?」
「はい。料理は好きで幼い頃から嗜んでおります」
「そうなの。お母様もお料理上手なのかしら?」
奥様の言葉に、思わず苦笑をこぼす。
案外よく聞かれるこの台詞に、いつものように返答を返した。
「…どうでしょう。幼い頃に他界してしまって、記憶があまりないんですよ」
「…まぁ…それは悲しいことを思い出させてしまったわね…ごめんなさい…」
悲しげに顔を歪める奥様に、いいえ、と首を振って微笑む。
別に隠すようなことでもないし、赤井家で大事に育てていただいたのだ。悲しいことはない。
「とんでもありません。…ですが、メイドをしていたようなので料理上手だったかもしれませんね」
「メイドさん?日本ではあまり聞かないけど…」
「ええ。私、イギリスで産まれたんです」
「まぁ。じゃあイギリスのお屋敷とかにいたのかしらね」
「えぇ。そう聞いております」
そうなの、と奥様は優しく微笑む。
ちらり、と旦那様の視線を感じるがすぐに新聞へと戻っていってしまった。
「これで完成です。どうぞ」
「ありがとう、早速いただくわ。ほら、あなたも」
奥様に呼ばれて、旦那様も新聞を置いてダイニングテーブルへとつく。
本当に寡黙な方だな、と思いつつもテーブルに料理を並べる。
「美味しそう!いただきます」
「………」
ご機嫌な奥様とは対照的に、旦那様は静かに手を合わせてから料理を口へと運んだ。
いつもこの瞬間は緊張する。お二人の口に合うといいのだけれど、と思いながら思わず様子を窺ってしまう。
「すごく美味しい…!これは人気になるわね!」
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kaoru(プロフ) - 一気読みしました!ぱぱんださんの赤井さん格好いいし、降谷との絡みが面白すぎる!!更新楽しみにしてます! (2020年7月9日 0時) (レス) id: ecb16dd86f (このIDを非表示/違反報告)
akithin.(プロフ) - 更新楽しみにしてます! (2020年5月23日 14時) (レス) id: 58267e955c (このIDを非表示/違反報告)
壟薇 - とても面白いです!更新再開待ってます! (2019年12月6日 15時) (レス) id: ebdf59309e (このIDを非表示/違反報告)
玄ちゃん(プロフ) - 初めまして(*^^*) 面白そうで最初から全て読みました! 更新が再開されるのを楽しみに待ってます(≧∇≦) (2019年11月2日 18時) (レス) id: b03705665b (このIDを非表示/違反報告)
grenouille(プロフ) - お久しぶりです!なかなかタイミングがなくて、すっかり時間が経ってしまいましたが、やっぱり、ぱぱんださんの作品好きです(^^)また、更新お待ちしてます(o^^o) (2019年8月18日 19時) (レス) id: 390c91a8c5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぱんだ | 作成日時:2018年12月2日 16時