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「ずいぶん古い物だろう?今度もっといいやつを買ってやるから」
「いいえ。お気持ちは嬉しいですが、私はこれがいいんです」
そう言って笑って、Aは手早く調理を始めた。
お湯が沸いた音がして、コーヒーのいい香りが漂ってくる。
「どうぞ、飲んでいて下さい。…あ!申し訳ありませんでした」
「?」
コーヒーを俺の前へ置いたAは、何かを思い出したかのように隣室へと消えていく。
すぐに戻ってきたAの手元を見て、俺は思わず目を見張った。
「どうぞこちらをお使い下さい」
Aが差し出してきたのは、灰皿とマッチ。
俺の記憶では、Aの前で煙草を吸ったことはないはずだが。
とはいえ、Aはアメリカの俺の部屋へ来たときに片付けをしてくれたりしていたから、煙草を吸っていることを知っているのは、まぁ頷ける。
しかし、Aの部屋になぜ灰皿とマッチが?
Aは吸わないだろうし、まさか出入りしてる男がいるのか?
「…秀一様?」
「…あぁ、いや…A、よく誰か…煙草を吸う知りあいでも訪ねてくるのか?」
「?…いいえ?」
首をかしげるAに、俺も首をかしげたくなる。
「じゃあ、なぜ灰皿が…」
「秀一様が来てくださった時用に、用意しておりました」
「!…そんな…来るかどうかもわからなかっただろう?」
「えぇ。でもこうして来て下さいましたよ?」
ふふ、とAはチョコレート色の瞳を嬉しそうに細めた。
そして、さて調理に戻りますね、とまたキッチンへ行ってしまう。
灰皿と共に残された俺は、マッチを右手で転がしながら、思わず緩む口元を左手で覆った。
自分のために用意されたものだとわかったとたん、こんなに嬉しいだなんて我ながら現金なものだ。
しかしながら、Aの前で煙草を吸うつもりはない。
Aは赤井家に来る前、火災に巻き込まれて両親を喪ったと聞いている。
そのせいで、幼い頃からAは火が苦手だった。
料理も、最初はガスコンロの火を怖がりながらしていたように思う。
料理に慣れた今では、火災ほどの大きな火でなければ大丈夫なようだが、それでもできるならAの目に触れさせたくはなかった。
マッチほどの、小さな火でも。
それに、不思議とAといるときは煙草が欲しいとは思わない。
とても穏やかな気持ちになるからだろうか。
そんなことを思いながら、コーヒーを飲み終える頃には、今度は夕飯のいい匂いが漂ってきた。
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ぱぱんだ(プロフ) - 桜桃さん» 夢主は警備企画課はアイドルみたいになってますからね(笑)赤井さんの悩みの種が増えること間違いなしです(笑)風見さん好きなので出せて良かった…!(*^^*) (2018年3月1日 10時) (レス) id: 0dfef02039 (このIDを非表示/違反報告)
桜桃 - 赤井さんが夢主のモテモテぶりを見たら、きっと血相を変えるでしょうね(笑)風見さん達が青春真っ盛りの少年見たいでカワイイ(*´ω`*) (2018年3月1日 10時) (レス) id: c7f2d52cbe (このIDを非表示/違反報告)
ぱぱんだ(プロフ) - 桜桃さん» 赤井さんは子供のころからイケメンであってほしいイメージです(笑) (2018年2月26日 12時) (レス) id: 0dfef02039 (このIDを非表示/違反報告)
桜桃 - 番外編読みました。赤井さんは子供の頃からカッコイイ! (2018年2月26日 12時) (レス) id: c7f2d52cbe (このIDを非表示/違反報告)
ぱぱんだ(プロフ) - えりさん» こちらこそ、ありがとうございます(*^^*)正直、嫉妬する二人は書いていて楽しいです(ひどい) (2018年2月23日 0時) (レス) id: 0dfef02039 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぱんだ | 作成日時:2018年2月10日 7時