優男がお好き【安室・降谷/赤井】

episode14 ページ16

.




「……最悪だ……」


ひどいことをした、という自覚はある。
赤井が死んだと知った、数日前の出来事だ。


スコッチの一件から、彼女の…Aの名を聞いて、FBI捜査官であることは調べがついていた。
赤井との関係性が気にはなったが、AはAだ。

あの日、スコッチのために流してくれた涙が嘘だとはとても思えなかった。
彼女の泣き顔をみたのは、あれが初めてだったから。
だから、彼女がFBI捜査官でも構わなかった。
むしろこの組織にいる以上、志が同じ仲間だとさえ思えた。


それに、Aの温もりにすがったのは自分だ。
あの日、俺はまた一人大切な友を亡くしたことに絶望して、あの自分より小さくて華奢な身体にすがったのだ。
コードネームなんかで呼びたくなくて、名前を教えてくれ、なんて馬鹿なことを言った俺に、Aは本当の名を教えてくれた。
それがどれだけ危ういことか、よくわかるだけに、嬉しかった。
だから俺も、本当の名を返したのだ。
彼女の優しさに、応えるために。


もうとっくに、わかっていたのだ。
情報が欲しいだけで恋人になった相手と、4年もの間続くわけがない。しかも相手は、俺の欲しい情報を恐らく持ってはいないのだ。
そんな相手とずっと一緒にいることの意味を、俺はわかっていたはずだ。


赤井が死んだと聞いたとき、真っ先にAの顔が浮かんだ。
嫌だったのだ。
スコッチのために流してくれた涙を、今度は赤井のために流すのかと思うと、許せなかった。


そう、ただの俺のわがままだ。


わかって、いたのに。
自分が悲しい時にすがって、彼女が悲しい時は突き放した。
スパイ同士、なんて、わざとらしく言って。
本当は、恋人でいたいのは自分の方なのに。


がたん、と立ち上がって車のキーを掴む。
いつまでも考え込んでいても仕方がない。
Aを失いたくないのなら、行くしかないだろう。
彼女の許しを得るまで謝って、それからちゃんと伝えよう。








ーーAのことが、好きなのだと。









外は、ひどい雨が降っていた。









.

episode15→←episode13

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す