花または海のような人【番外編】

【花】pamper.3 ページ44

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「ところで、何か欲しいものは思いついたか？」


ケーキを食べながら、昼間に電話で伝えておいた埋め合わせの件を持ち出せば、Aはうーん、と唸りだして。


「…それが…なかなか思い付かなくて…こうして美味しいケーキもいただいたので、今回はこれで…」

「だめだ」

「…私がいいといってるのに、だめなんですか…？」

「だめだ。いつもそうだろう？」

「…そう言われても…こうして一緒にいられれば、私は充分幸せなんですが…」


困ったように眉を下げるAに、ひとつため息をつく。
わがままを言う女はたくさん見てきたが、わがままを全く言わずに、逆にこちらが困る女なんて正直初めてだ。

そもそも男なんて身勝手なものだ。
わがままを言われれば、仕事が優先に決まってるだろう、と言い。
わがままを言われなければ、頼って甘えて欲しいと願う。
なんとも困った生き物だ。


「…A、君のその控えめな性格はとても好ましく思うけれど、俺としてはもっと甘えて欲しいと思うんだが…」


どうだろう？と問いかければ、Aはわずかに頬を染めて視線をさ迷わせた。


「何かあるなら、遠慮なく言ってくれ」


もうひと押しだ、と思って畳み掛けるように言えば、Aはちらり、とこちらを見て恥ずかしそうに口を開く。


「…それなら、その…もう少し、一緒にいたい、です…」


あぁ、もう。
Aは一体どれだけ俺を困らせれば気がすむのだろう。
そんなの、わがままでもなんでもないじゃないか。

たまらなくなって、ぎゅうっとAを抱きしめる。


「そんな可愛いことを言って、Aは俺をどうしたいんだ？」

「ど、どうって…」

「もう黙って」


自分で聞いておきながら、キスでAの唇をふさぐ。
角度をかえて、何度も深く口付ければ、Aの潤んだアイスブルーの瞳と視線が絡む。

本当にAは俺を煽るのがうまい。
いや、彼女にそのつもりはないのだろうが、俺はその揺れる瞳ひとつでたまらなくなってしまう。


「…ベッドに、行こうか」

「…あ、の…お風呂…」

「後でいいだろう？」


そう言って彼女を抱き抱えて、俺はAをベッドへと連れ込んだ。


結局、いつもこうなのだ。
俺の我慢が足りず、Aを甘やかすどころか、結果俺が甘やかされているようなものだ。
いつになったら、俺はAのわがままを聞いてやれるのだろうか。


そう思いながら、俺は彼女のやわらかな肌に溺れていった。





fin.

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