花または海のような人【番外編】

【花】ウワサのHoney.5 ページ21

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「秀一さんのお弁当、ちゃんとありますから」

そう言ってAが差し出して来たのは、モスグリーンのハンカチに包まれた一人分のお弁当箱で。

「…A…」

「秀一さんの好きなおかず、つめてありますから食べて下さいね」

そう言って、やわらかな笑顔を見せる。
あぁ、本当に困るくらい俺の妻は最高だ。

「…A…っ」

再びぎゅう、と抱きしめれば腕の中で彼女は真っ赤になっている。
後ろから、ありゃ骨抜きになるわー、とかラブラブだなー、とか独り身にはキツイ、とかいろいろ聞こえるがこの際無視だ。
どんなに羨ましがったって、彼女は俺のものなのだから。

「しゅ、秀一さん…あの、私そろそろ…」

これ以上仕事の邪魔をしては、と帰る素振りを見せるAを渋々、本当に渋々離す。
俺はまだ、充電が足りないのだが。

「赤井、休憩行ってこいよ。その弁当持ってさ」

「それがいい。奥さんの、差し入れの礼だからな！」

「悪いな。…行ってくる」

同僚たちの気づかいをありがたく受け取って、Aの手を引いて職場を後にした。
屋上のベンチに並んで腰かければ、Aは困ったように眉を下げて。

「…あの、すみません…ずいぶん仕事の邪魔をしてしまいましたね…」

「何を言う。むしろ士気をあげてもらったようだ。Aが来るまでみな、通夜のような顔してたからな」

Aの頭をそっと撫でて、お弁当の包みを開けながら答えれば、彼女は少しほっとしたように微笑んだ。

「…あぁ、旨そうだ。ずっとAの作った飯が食べたかったんだ」

「ふふ、それなら良かったです」

相変わらず、Aの料理は優しくて、美味しくて。
疲れた体にしみわたるようだ。
旨い、と言いながらあっという間に平らげる俺を、Aは嬉しそうに眺めていた。

「…ねぇ秀一さん、愛してます」

「…！」

普段照れてなかなか言わない彼女からの、突然の愛の言葉に、思わず目を丸くする。

「…だから、あまり無茶しないでくださいね？」

そう言ってAは、変わらず花のように笑う。


「……それは、無理だな。多少の無茶は許せ」


その願いは、聞けそうにない。
もう、と苦笑を浮かべるAに口付けた。

だって、



「一秒でも早く、Honeyのところへ帰りたいからな」






後日、赤井秀一が海の向こうからさらってきた、ウワサのHoneyはウワサ以上だったという噂が更に流れ。
捜査が煮詰まった時に、たびたび差し入れ要請がAにいくようになったとか。



fin.

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