23 ページ23
黄side
静かな波の音だけが響く。
そんな静寂を破ったのは、俺ではなくしげだった。
赤「……この前さ、ごめん」
ポツリ、と呟かれた声は少し震えている。
黄「この前って…?」
赤「……どうしたんって聞いてくれたのに、無視した」
あぁ、しげの涙を見た日のことか。
赤「……や、なんもない」
自分から聞いておいて、なんもないって…。
黄「言いたくないならいいけど…、話したなったら言ってな?」
きっと今のしげは、誰かに話が聞いて欲しいんやと思う。
いつもの笑顔はどこへ行ったのか、空元気やし。
赤「……ずるぃ」
電灯に照らされたしげの顔は、どこかほっとした様な、薄ら涙を浮かべながら 眉を下げていた。
赤「じゅ、たぁ…俺、ちゃんとできんかったらどうしよぉ…」
せっかく着てくれた浴衣が しげの涙によって染みができていく。
赤「去年より、じょ、ずに踊らなっ…」
涙が止まらないしげを、そっと抱きしめる。
儚く消えてしまいそうな、あの日のしげと重なって…。
黄「…大丈夫、大丈夫や」
赤「で、もっ…」
黄「大丈夫、俺ずっとしげの踊り見ててんで?」
遊びの時間を削って 毎日真剣に取り組む姿を。
去年何があったのか知らない。
それでも、毎日見てきた俺には分かる。
黄「俺が見とれるくらい、しげの舞は綺麗やねんで?」
292人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:おかゆ。 | 作成日時:2020年7月16日 19時